昼間の月 (parallel/from Keep your vow) |
「三蔵、月が見える…」 病室の窓から身を乗り出すようにして悟空が空を指差した。 「こら、そんなに乗り出したら落ちるだろうが」 慌てて三蔵がパジャマの襟首を掴んで引き戻した。 「大丈夫だって」 にっと笑って、三蔵を振り返った。 「ほら、月」 窓から明るい空を見上げれば、そこにぽかりと浮かんだ半月を見つけた。 「な?──白いんだ…月…」 嬉しそうに、新しい発見をした幼子のように瞳を輝かせて、悟空が笑った。 生まれてから家と病院のベットしか知らない少年。 だから、この手で何とかしたいと、三蔵は思ったのかも知れなかった。 「なあ、月の出が遅くなるから昼間も見えるんだって、書いてある」 いつの間にかベットに戻った悟空が天体の本を広げていた。 「あ、ああ…そうだな」 沈んでいた自分の考えから引き戻されるように頷けば、 「疲れてんの?」 と、ベットから降りて、窓際に立つ三蔵の顔を覗き込んできた。 「ホント?」 信じられないと、小首を傾げて問い返してくる。 「大丈夫だ。心配するな」 そう言って、くしゃりと悟空の頭を撫でてやった。 「うん…」 まだ、ちゃんと納得はしていない顔付きだったが、頭を撫でられた感触にくすぐったそうに肩を竦めて、何とか頷いたのだった。 「で、月がそうしたって?」 話を戻して、促してやれば、 「あ、うん…──ほら、月の出がだんだん遅くなるから昼間にも月が見えるんだって、本に書いてあるんだ」 ベットに戻って、悟空が指し示す本を覗き込んで頷く。 「ほら、な?」 悟空が月の項目の中のその部分を指差した。 昼間の朧な白い月。 それはこの目の前で笑っている少年の姿にどうしても重なって、三蔵は悟空が指し示す部分に目を通しながら、気付かれないように拳を握りしめた。 「ああ、確かに」 嬉しそうに本を抱えて、笑う。 「なら、ちったあ勉強しとけよ。春から学校いくんだろ?」 「ん?」と、顔を覗き込めば、瞬く間に唇が尖ってゆく。 「三蔵まで、母さんみたいなこと言うんだ」 と、上目遣いで睨んできた。 「もうっ!」 くるりと三蔵に背中を向けて悟空は完全に拗ねてしまった。 「怒るな。でもな、ちゃんと勉強しておいて損はねえからな」 「な?」と、もう一度頭を撫でれば、 「……うん…わかっってる」 小さな声で頷いて、悟空は三蔵を振り返った。 「じゃあ、付き合ってくれよな」 そう言って笑う笑顔に、三蔵は頷いたのだった。 |
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