名残の雪


春浅い川縁で、三蔵は一人の子供を見かけた。
年の頃は十になるかならないかだろうか、酷く汚れた痩せっぽっちの子供だった。春とは名ばかりの名残の雪が混じるまだまだ冷たい風に晒された枯れ枝のような手足を投げ出して、その子供は寝転がっていた。
死んでいるのかと思ったが、よくよく見れば薄い胸が微かに上下していた。

「生きてるのか…」

微かに動く胸の動きに思わずそう三蔵は呟いていた。
その声が聞こえたのか、子供の瞼が開いた。
痩せた顔の殆どを締める大きな瞳が、子供を見下ろす三蔵の視線を捉えた。



金色…だと…?



子供の瞳の色に思わず躯を引いた三蔵に、子供は酷く哀しそうに瞳を眇めると、大きく息を吐く。
そして、億劫そうに躯を起こすと、また、大きく息を吐いた。
座った上半身がゆらゆらと頼りなげに揺れていたが、三蔵は掛ける声も言葉も紡ぐことができない。
やがて子供は覚束ない動作で立ち上がると、ふらふらと川縁の草むらの中へその姿を消した。

三蔵は凍てつく冬の名残の風の中、何時までも子供の背中が消えた草むらを見つめていた。

和の言葉を題材にして50のお題 01:名残の雪
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