春も盛りを迎えるその日、一人の子供を拾った。 巡る季節、重ねる春。 また、新に迎えるその日、子供が幸せでありますように───
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Wish your well |
このところの寒気の戻りで、開き始めていた桜に待ったがかかった。 今年は暖冬で、桜は例年より早く咲くと予報が告げていたにもかかわらず、冷え込み、雪まで降った日にちを数えれば、満開を迎えるのは、いつもの年と変わらぬ時期であるようだった。 三蔵に岩牢から連れ出してもらった悟空は、寺院の生活にも慣れ、新たな側係となった笙玄にも少し慣れた。 季節はあれから三度目の春を迎えようとしていた。
「おはよう」 開け放った窓辺に止まる小鳥たちに挨拶をして、悟空は寝台の上で大きく体を伸ばした。 「早いなぁ…」 ぱたんと伸ばした腕を掛布の上に落として、悟空は小さなため息をもらした。 「悟空、起きていますか?」 悟空の返事に笙玄は穏やかな微笑みを浮かべて頷いた。 「おはようございます」 ご飯と聞いてぱっと顔を輝かす悟空に、笙玄は笑顔を返して寝室の扉を閉めた。
「行ってきます」 元気いっぱい頷いて、悟空は遊びに出掛けた。 空は春特有の霞がかかったようなどこかぼんやりした青空で、太陽は温かく、柔らかな色で輝いていた。 「もうすぐ満開になるんだ」 裏山へ続く奥の院の庭に植えられた桜の木々を見上げて、悟空は嬉しそうにその黄金を綻ばせた。 「満開になったら三蔵と見に来るな」 悟空は桜の木々に笑いかけると、裏山へ駆けて行った。
お気に入りの場所へ行くと、見知らぬ少女が悟空を迎えた。 「こんにちは」 にこりと頬笑んで、挨拶をする。 柔らかな金茶の髪に、桜色のチャイナドレス。 「…こん、にちは」 頬を染めて、悟空は挨拶を返した。 「悟空、いつもありがとう」 少女の言葉に、悟空の金眼が見開かれる。 「いつも優しくしてくれて、愛してくれてありがとう」 訳が分からない悟空は、自分に抱きつく少女の身体を引き離すことも忘れている。 「大好き」 少女は悟空から離れる時、そう幸せそうに告げた。 「…な、に…?」 悟空が聞き返す間もなく、少女は悟空の前から駆け去って行ってしまった。 「……あ…」 その声に悟空は周囲を見渡し、きゅっと眉を眇めると、唇を噛んで俯いてしまった。 「ごめん…でも、嬉しい……ありがと…」 と、答えた。
「ただいま…」 夕食を食卓に並べていた笙玄が、昼も食べずにいた悟空を笑顔で迎えた。 「どう…したんですか?その桜…」 笙玄の問いに、悟空は 「貰った…」 とだけ答え、枝を笙玄に渡すと湯殿へ走って行ってしまった。 「桜…か?」 三蔵は笙玄の言葉に、どこか納得したように頷いた。 「悟空の目につきやすい場所へ生けてやれ。但し、一切ハサミを入れずに、そのままでな」 三蔵の指示に頷きながら、笙玄は首を傾げた。
幾分すっきりした気分で、湯殿から居間に戻った悟空は、そこに三蔵の姿を見つけて思わず駆け寄った。 「…おかえり」 返事を返せば、腰に回された悟空の腕に力が入る。 「………桜、もらった…」 ぎゅっと、三蔵の部屋着を掴む悟空の手に力がまたこもる。 「悟空…?」 そう言って三蔵を見上げた悟空の顔は、涙に濡れていた。 「知ってるだろ?」 涙で潤んだ金眼が、不思議そうな光を宿す。 「お前がいつも言ってるからだろ?」 三蔵の言葉に悟空は、一瞬呆けたようになり、すぐ、顔に朱を登らせた。 「うん、うん…俺、三蔵の傍に居るから、居たい」 朱に染まった悟空が頷く。
───俺が還さねぇよ…サル
それは出逢って三年目の桜の季節の小さな祝福─────
end |
三空幕府 悟空聖誕祭 参加作品 (2004年) |
ということで、悟空誕生日記念のお話でございます。 男らしく、時に可愛く、時に脆く、大地の愛し子悟空の誕生日を 皆さまとお祝いできて嬉しいです。 今年はちょっと切ない感じのお話になりましたが、 最後は甘くなったはず(?)と、思いつつお許し頂ければ幸せです。 何はともあれ、悟空、お誕生日おめでとう! |
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