雪 闇 |
朝から降っていた冷たい霙混じりの雨が、昼過ぎから大きな牡丹雪に変わった。 子供はしんしんと降り積もる雪を寝台の上で、開け放った窓から息を潜めて見つめていた。 いつもならそんな子供の様子を咎め、温かい腕に囲い込んで、優しさでくるんでくれる保護者は、三日ほど前から忙しい仕事の所為で部屋に戻ってきてはいない。 降る雪の所為で空は重く、暗く、夕暮れは常より早く訪れ、大気は凍てつく。 子供はそんな景色に心を奪われることなく、ただ、暗い瞳をして降り積もる雪を見つめていた。 日付が変わる頃、疲れ切った保護者が寝所へ戻って来た時も、子供はそのまま寝台の上にいた。 「悟空…?」 外界と全く同じほどに冷え切った室内。 「悟空!」 思わず上げた声の大きさに自らはっとし、呼ばれた子供は緩慢な動きで声のした方へ顔を向けた。 「……ぞ…?」 凍えた吐息の声。 「…さ…ぞ…」 抱き締める腕に力を込めて、三蔵は冷え切り、凍えた悟空の身体を毛布の上から撫でた。 しんしんと雪は降り積もり、世界の全てを白く塗り替えてゆく。 「…もう、いいから」 そろそろと悟空の手が三蔵の衣に伸ばされた。 「…なんにも聴こえなくなってきたから……一人だって…俺…」 衣を握りしめた拳が白くなる。 「雪…きれーなのに……冷たくて…白くて、何も見えな……って…」 華奢な凍てついた悟空の身体を抱き締める三蔵の腕に力がこもる。 「……こ、ここ…るよな?傍に…いるよな…?」 そう言って見上げてきた顔は涙に濡れて。 「さん、ぞは…何処にもいか、な……な?」 空洞であった金瞳は、色濃く不安と怯えに染まって。 「さ、んぞ…は、ここにい…──んっっ」 これ以上縋る声を聞いていたくなくて、三蔵は悟空の唇を己のそれで塞いだ。
俺はここにいる。 お前はここにいるから─────
「──…っぁ…さ、んぞぉ……」 甘い声で三蔵を呼ぶ悟空を寝台に横たえ、三蔵はその上にのし掛かった。 「囚われているんじゃねぇよ…サル」 見上げてくる金瞳に唇で触れて、 「その身体で確かめろ、悟空」 その言葉に悟空は一瞬、瞳を見開いて、すぐ、こぼれ落ちるような笑顔を浮かべた。 「うん…そして、刻みつけて…忘れないように…」 紫暗を眇めて三蔵は笑い、悟空の身体に己を沈めていった。
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