懸想文売
光明は困っていた。 「光明様のお屋敷に時折、いらっしゃる公達はまだ、お一人の身でいらっしゃるのでしょうか?」 最初、言われた時は何の話だ、誰のことだとわからなかったが、よくよく相手の使者殿の話を聞けば、どうやら金蝉童子を見初めたと言う話だった。 「どこで見られているかわかりませんね」 などと、感心している場合ではない。 「…そうですか…でも、あの者は申し訳ないのですが、すでに子供もいる妻帯者です」 と、言えば、 「それは残念…」 そう言って、諦めてくれるならそれで良い。 「金蝉…お前はどこでこれほど顔を売ったのですか…」 断っても断っても来る縁談の数に光明はため息しか出ない。 「あ、そうそう…」 濡れ縁で今夜も呪符を作る傍ら、 「…しばらく近づくんじゃありませんよ」 と言う伝言を載せた白い鳥の式を飛ばした。
「式…?」 庵の蔀を抜けて舞い降りた白い鳥が三蔵の手に止まるなり、手紙に変わった。 「どういう意味だ?!」 訳がわからない。
「おや、帰って来た」 呪符を作る手を止めて、戻って来た式を手に取った。 「はりきらねばいけませんね。とっとと片付けて遊びにゆきますよ」 そう言って、光明はまた呪符を作り出したのだった。
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懸想文売(けそうふみうり):元日寅の刻から縁談、商売繁盛の符札を売り歩いた商人。 |