そは生まれ出し 大地が生み そは大地母神が愛し子 花果山が山頂にて育まれし仙石 日月の気を浴び 父なる自然は歓喜に打ち震えた 大地がオーラを一身に浴び、幼子は育つ 申し子達の慈しみを受けて、汚れ無き魂が育つ 大地の恵みを
|
金色の幼子 (1) |
素肌に感じる風に子供は、起こされた。 幼い小さな手で目をこする。 糧──木の実や果物──森の恵みを口に運びながら、子供は周囲を見渡した。
季節は、もうすぐ夏を迎えようとしていた。 川風の涼しさにほっと息を吐く。 ──早めに切り上げて村の酒場でのんびりするか そんなことを考えながら男が腰の水筒から水を飲みかけたその時、腰を下ろしている石のすぐ横の茂みが不意に音を立てて揺れた。 「狐か狸か・・・それとも?!」 思った時、素っ裸の幼子が飛び出して来た。 「な、何だ?」 身構えていた男の身体から力が抜ける。 「何だ、ガキか。脅かしやがって・・」 男は舌打ちすると、石に座り直し、飲みかけの水を飲み始めた。
自分よりも大きな生き物。 子供は好奇心のままに恐れる様子もなく男に近づいて行った。
森で出会った男以外の人間。 子供は、目を見張って立ち止まってしまった。 「な、何だ?」 男が見ると、山で会った子供が自分の腰にしがみついていた。 「何でお前、こんなとこにいるんだ?」 子供を腰から引き剥がす。 「今、帰りかい?祥」 声の方を振り返ると、馴染みの女将が立っていた。 「どうしたんだい、その子は?」 女将は、祥にしがみついている子供を覗き込んだ。 「坊や、どうしたい?」 そっと声をかけながら、裸の背中を撫でた。 「まあ、なんて可愛い子だろうね」 見上げる潤んだ零れ落ちそうな大きな金の瞳、大地色の腰まで伸びた柔らかな髪、小さな華奢な躯。 「大丈夫、何もしないよ。おいで」 女将は撫でていた手を止めて、両手を子供に向かって差し出した。 「いい子だ」 女将は子供を抱き上げると、祥に 「あんたもおいで」 そう言って、店に戻って行った。
子供を店の縁側に下ろし、女将は祥にも座るように促して、口を開いた。 「山で会ったんだけどよ、付いてきちまったらしい」 自分を見上げる子供に気が付いて、その頭を撫でてやる。 「山で?」 女将は子供に店のリンゴを一つやった。 「妖怪の子供かい?」 不安げにリンゴを囓る子供を見下ろす。 「まあ、連れてきちまったものはしょうがないさね。御子にしろ妖怪の子にしろ、あんたに懐いてるようだから、面倒をみてやらないといけないだろねぇ」 女将の言葉に慌てた祥の剣幕に子供は、びっくりしてリンゴを取り落としてしまった。 「ふぇ・・」 今まで嬉しそうに笑っていた顔が、見る見る泣き出しそうに歪む。 「祥!」 声を上げた祥を睨んで黙らせると、 「ほら泣くんじゃないよ」 女将は子供にもう一つリンゴを手渡してやり、宥める。 「ま、日暮れになれば家へ帰るだろうけど、それまではあんたが側に居てやらないといけないよ。それにその格好じゃちょいとまずいね」 女将はそう言うと、店の奥に入り、子供の服を持って出てきた。 「うちの坊主のお下がりだけど、この子に着せておやり」 差し出された服を見て、祥はめんどくさそうに顔を眇めたが、どうにも断れないと見て、服を受け取った。 「おい、坊ず、立て」 祥は、リンゴを頬張っている子供を立たせ、服を着せ始めた。 「ちょっと大きいかね」 袖とズボンの裾を折り曲げて、緩い襟元から細い肩をのぞかせた子供がにこにこと笑って立っていた。 「いいんじゃないか」 ぽんと、子供の頭を軽く叩くと、立ち上がった。 「祥?」 子供は着せてもらった服が珍しいのか、撫でたり、引っ張ったりしていた。 「すぐ戻って来るよ」 泣きそうな顔で女将を振り向いた子供は、女将の言葉に女将と戸口を交互に眺めやって、落ちつかなげな顔をしていたが、やがて何も言わず黙って祥の去った戸口を不安げに見つめていた。
「懐かれてるねぇ」 泣きじゃくる子供に狼狽える祥の姿を女将は、笑って見ているだけで手を貸そうとはしなかった。 「何とかしてくれよぉ」 困り果てた顔で助けを求める祥に、女将は笑いながら首を振った。 「その子はあんたがいなくて不安だったんだ。だから、ちゃんと抱いておやり」 祥は女将に言われるまま、しがみついて泣く子供を引き剥がして抱き上げた。 「もう泣くな」 つっけんどんな口調でそう言うと、子供はしゃくり上げながら顔を上げた。 「泣くな」 もう一度言う祥の困ったような怒ったような顔に子供は一瞬不思議そうな顔をした後、ほころぶような笑顔を祥に向けた。 「何だよ、なあに赤くなってるんだよ」 そんな祥の様子に女将が呆れた声を上げる。 「えっ・・・あ、い、いや、お、俺は・・・」 どぎまぎと益々赤くなる祥の様子に女将は笑い転げた。
|
close >> 2 |