――identical U




ヒュウッ…と、風が鳴った。

反射的に――その位置から飛び退けたのは、今まで培ってきた戦いの経験と勘によるモノだった。
考えるより先に身体が反応し、結果、三蔵の命を救った。
今まで身体があった場所を、鋭い爪が裂いていく。

耳元スレスレで感じた風圧に、一瞬遅れて冷や汗が吹き出た。
千切れた数本の金糸が、パラパラと風に舞う。





寺院の広い庭を渡る為の廊下の途中。
薄暗くなりつつある庭の植え込みの影から、ソレは突然現れた。

三蔵が飛び退いた先を追うように、低い位置からの攻撃が再び繰り出される。
足元を連続的に襲われて、体勢を整える隙が見つからない。

…が、このままの状態で避け続けるには、限界があった。

廊下の壁を眼にした三蔵は、思い切って踏み切ると――壁にある柱の窪みを脚で蹴って、空中で身体を反転させた。
背中を追ってきた息苦しいほどの殺気が、一瞬緩む。

その僅かな隙を突いて取り出した銃のトリガーに指を掛け――相手の眉間を狙った。




ピタリ――と、狙いをつけた照準の先で。

小柄な子供の姿をした獣が、その動きを止めた。
ギラギラとした光を放つ光彩が、明確な殺意を浮かべて三蔵を睨みつけてくる。





「チッ――大人しく死んでいれば良かったのに」

普段より低い響きを持つ声が、三蔵が保護下に置いている子供の口から漏れた。
細く尖った光彩が、その金晴眼の印象をまったく別の存在へと変えている。

「久しぶりに出てきたと思ったら、…たいした歓迎じゃねーか?」
「――煩い」
「…俺を殺すと、あとが厄介なんじゃなかったのか?」
「それくらい、何とでもする。
 アレにいらぬ知識ばかり教えるお前は、…邪魔だ!」

悟空の姿をしたモノが、敵意を顕わに吐き捨てた。



「?……悟空に、何かあったのか?」
「何かあったか…だと?」
「――――」

「まったくもって、救いようのない愚かさだな、人間」

冷えた空気が辺りを包み、凶暴な気配が濃くなった。
何時でも引き金を引ける体勢でいるにも拘らず、優位に立っている気分にはなれない相手を前に三蔵の喉が鳴る。
彼の静かな怒りの理由のすべてが、悟空に拘わる出来事から起こるのを三蔵は知っている。
…と言う事は、三蔵が外に出ていたこの数日の間に何かが起こったと考えるしかない。

悟空だけを愛し、守り続ける彼が表に出て来ざるを得ないような――何か。

だが、三蔵が離れに来るまでに見た限り、寺院内で不穏な騒ぎが起こったという気配はなかった・・・筈だ。
出迎えに現れた、あの傍仕えの僧からも異変は感じなかった。

「…愚かで結構だ。悟空がどうした?」
「――教えたくなくなった」

「てめぇ…ッ!」

この期に及んで気紛れを起こした相手に、三蔵はトリガーに掛けた指先に力を込めた。




「……撃てもしない癖に」
「テメーは別、だろう?」
「そういうお前の強がりは、嫌いではないが――…俺は今、機嫌が悪い」
「だから、何があったか訊いている」

問答無用で襲われて、相手の機嫌が良いなどとは三蔵も思わない。
ただ理由もなくこんな風に憎しみを向けられるのだけは、我慢ならなかった。

「…お前は、言葉が少なすぎる。だから、アレが不安になって、余計な事をしようとする。
 ただ傍に置いておくだけなら、縛るのは止めろ」
「テメーに云われたくねぇな…」
「――お前…、今の寺院で一番幅を利かせているヤツが誰か知っているか?」
「………?」
「知らないだろうなぁ…経文探しにしか興味のないお前じゃ…」

侮蔑に誓い声音で囁いた悟空の中にいるもう一人の存在は、口の端をあげて三蔵を嗤った。
だが、話を続ける気にはなったようだ。



「お前が何も云わなくても、その程度の情報はコレの耳にも入ってくる。
 この寺院にお前が在籍している理由も、年中、三仏神なんぞの使いっ走りをしている訳もな?
 まったく…無駄話の好きな坊主が多いなぁ、此処は?」
「……それで?」
「おかげで“三蔵法師”であっても何か問題があれば、寺院から排斥される事もある――と、アイツは信じ込んでいる。 そして、寺院から追い出されたらお前の大事な…師匠が持っていたと云う経文探しが出来なくなってしまう…と」
「―――…」

無言のまま眉を顰めた三蔵に、少しは溜飲が下がったのか…少しだけ彼の殺気が薄らいだ。
ソレを見て、三蔵は眉間を狙っていた銃口をゆっくりと下に降ろした。

「そんな時だった――ここの檀家の一つで、慶雲院を裏から動かしている――とまで囁かれている、有力者の男と会ったのは。確か、3ヶ月前だ。
そいつは幅広く商いもしていて、この土地では知り得ないような目新しい情報も掴めるらしいぞ?」
「…やけに詳しく知ってるじゃねーか」
「そりゃ、悟空を呼び出しに来た奴らが、親切ズラして教えてくれたからなぁ?
『お前が下手をしてその男を怒らせたら、例え『三蔵様』でもこの寺院から追い出されるぞ』って…な?」

「―――っ、会っただけじゃ…ねぇーんだな?」
「…あぁ…」

三蔵は己の声が掠れているのを自覚した。
ひどく嫌な予感に、背筋がざわつく。

その三蔵の苦しげに歪められた唇を楽しげに見詰めた子供は、足音もたてずに近づいてきた。




「“三蔵様のお手つきの子供”って云う噂は、意外と男をソソルらしいぞ?
 妖怪を傍に置いて、今だに手放さないでいるのは、“具合がイイ”から…だ、そうだ」
「……っな!」
「俺もまさか、本当に試したがるヤツが出てくるとは思わなかったがなぁ?」

艶かしささえ感じさせる金晴眼が、低い位置から三蔵の紫暗を覗き込んで囁く。



「テメェ…それで、好きにさせたのかッ?!」

子供の襟元を掴んで引き上げると、三蔵はその小さな身体を廊下の壁へと押し付けた。
三蔵の激昂を、ワザと抵抗もせずに受け止めた存在は、その腕に手を回して「お前のせいだろう?」と冷ややかに呟いた。

「お前が何も言わないから、コイツは耳に入ってくる周りの噂で判断するしかない。
 お前の迷惑にならないコト。出来れば役に立ちたい…ソレが悟空の望みだからだ」
「………チッ」
「その為に、しなくても良い我慢や辛抱まで覚えてしまった」

「……お前でも――止められなかったのか?」
「あぁ……」

子供の首筋を閉めていた手を緩めて、三蔵は彼の悔しそうに歪められた小さな唇を見た。







「三蔵」の為になるなら、と。

そう強く信じた悟空は、護ろうと内から手を差し出す存在すら、その心の中から閉め出してしまったのだ。
誰よりも傍にいて――心から愛をそそぐ声からも耳を塞いで。




「…お前を、殺してやりたい」

呪詛のような言葉だった。




この男を殺してやりたい、悟空の心から完全に。
そうすれば、また…アレは俺だけのモノに還るはずだ、と。

それなのに――。
自分の事を見るのが精一杯で…、悟空に不自由を強いるだけの存在でしかない唯の人間を。
どうして憎もうとしてくれないのか?

どうしようもできない悲しい怒りを満たした細い瞳孔が、悟空を縛り付ける存在――三蔵に向けられた。




「それは…簡単に叶えてやる訳にはいかねぇ…な…」

そう言って、酷く傷ついたような瞳をしている彼の頬に触れた。
途端に――ビクッと、小さく躯が震え、僅かに彼は動揺した色を瞳に浮かべた。



…3ヶ月前だと、コイツは云っていた。

おそらく、その間もずっと呼ばれて出ていく悟空を止めようとしていたに違いない。
もし今回の事で、悟空が心の中で苦しいと泣いたのなら――“助け”を求めたのなら――彼は嬉々として現れた筈だ。
理不尽な権力を嵩にきて、悟空を脅していた男に制裁を加える為に…。

ソレが出来なかった理由を想って、三蔵は苦い溜息を吐いた。



そして、それほどの長い間…気づかないでいた自分を、確かに愚かだと思った。
元気で素直に育っていると、何でも話してくれていると自惚れていた。

…だが、実際にはこんな悲しい隠し事ができるくらいに成長してしまっていたのだ。




「それで――“今日”は…お前を呼んだんだな?」
「…そうだ」

「何をされた?」
「“された”…と云うよりは“した”…だな。
抵抗しない悟空に、調子に乗ったジジイが勃ちしもしねぇー萎びたモンを、触らせるだけじゃなくて――咥えさせようとしやがったから…我慢できなくて抵抗した。
そしたら、壁にぶち当たって…、…動かなくなったジジイに驚いた悟空が――混乱して…それで…」
「――部屋から逃げ出して、ココで俺を待ち伏せか?」
「………」

正しくは――何も知らずに暢気な顔で帰ってきた三蔵を見て、逆上して襲い掛かってきた――と云うトコロだろう。
三蔵を殺して悟空に恨まれたとしても…、それ以上は傷つけずに護っていく事だけはできるのだから。




「俺は…礼を言っておくべきか?」
「?」
「死んでねーんだろ、そのジジイ? 俺がヤッていたら、確実に息の根を止めていただろうからな」
「……ったく。坊主の台詞じゃねぇーな…」

頬に触れていた三蔵の手を払うと、子供は三蔵が触れられない距離まで下がった。
冷たい金晴が、まっすぐに紫暗を射抜く。

「俺から見れば――お前も、…あのジジイも、そう大して違いはない」
「……だろうな」

そこに嘲るような響きがあるのは、隠された三蔵の“欲”を見通しているからに違いない。

見えないものを視る――この美しい金晴眼には、三蔵の姿はどう映って見えるのか?
聞いてみたいが、今はまだその勇気はなかった。




細めた瞳で、静かに三蔵を見据えた後に。

「――詫びる気があるなら、後の始末はお前がしろ」

疲れたようにそう告げた。



「あぁ、面倒をかけたな」
「…ふん、だが忘れるなよ? 俺は、お前が嫌いだ」
「…あぁ」
「今度、アレに同じような事をさせたら、確実に殺す」
「あぁ」

いつかも聞いた捨て台詞だった。
アノ頃から…お互い、あまり成長してないようだ…と自嘲する。



それでも、言いたい事を言い終えて気が済んだのか。
彼は、三蔵が頷くのを確かめると――ゆっくりとその眼を閉じた。






そして、三蔵は…。

深く閉じられた瞼の下から、彼の大切な黄金が現れるのを祈るような想いで待ち続けた。






           ◇◇






ゆっくりと開いた瞼の下から。
柔らかい、満月の色をした瞳が三蔵を映しだす。

寝起きの時にする仕草で、何度か大きく瞬きをした悟空は――目の前にいる三蔵を見て、僅かに首を傾げた。

「あれ…さんぞ? なんで?…お仕事終わるの、明日だったんじゃねーの?」
「…あぁ、俺に無断で説法なんざ押し付けてきやがったから、逃げてきた」

不機嫌な声で予定が早まった理由を口にすると、悟空は微かに笑った。



だが、次の瞬間――。
…我に返ったように、キョロキョロと辺りを見渡した。




「…あれ? でも、俺…なんで…こんなトコに」

いるんだろう? 
――と、言いかけて顔を強張らせた。

部屋での出来事を思い出したのだろう。
ガタガタ震えだした躯を自分で抱き締めるように押さえつけた悟空は、無意識にその腕から逃げようと後ずさっていく。青褪めた顔を歪ませる悟空の様子に、慌てて三蔵は手を伸ばした。

「待て…悟空!」
「……っ!! やぁ、あ!!」

追い詰められた小動物のような悲鳴が上がった。
肩に伸ばされた三蔵の手を必死に跳ね避けようとした悟空の背中が、後ろの壁にぶつかる。
逃げ場を失った悟空は、子供のようにイヤイヤと首を振った。



「ご、ごめん、なさい…! ごめん、三蔵! 俺…おれ、…っ、失敗した!」
「……悟空、もう良い、――大丈夫だから」

こっちに来い…と、手を伸ばす三蔵から、躯を隠すように夢中で廊下の床に小さく、小さく蹲まる。
三蔵の視線に怯えて、見上げる瞳から涙を溢れさせた。

「俺、ちゃんと、し、しなきゃって…思ってたのに、…でも、すごく、すっごく…嫌で…っ、我慢できなくて…だから、…っ」
「悟空…っ」

血の気の引いた唇が、ガチガチと歯を鳴らす。
その痛々しい様子に堪らなくなった三蔵は、小さく丸まった身体を強引に抱き締めた。
腕の中で尚、涙を零しながら謝り続ける悟空を眼にして――そんな無体を強いたジジイと、影で結託していた僧徒への憎しみを滾らせた。

ギリッと、唇を噛み締めた瞬間――嘲るような鋭い金晴眼が脳裏を掠めた。

きっと、あの時の彼も…こんな気持ちでいたに違いない。
まるで・・・殺されるよりも酷い罰を受けているようだ。




「さん…、さんぞ…ぉ…ごめ…な?」
「もう――良い…、悟空。心配するな、大丈夫だ、あの男は死んでない」
「…………っ……ん……ぁ?」
「気絶しただけで、生きている」
「………生き、…て…?」
「あぁ…」

泣き塗れた金瞳が、三蔵が何故そんな事を知っているのだろう…?と言う疑問を浮かべている。

三蔵は濡れた頬を拭いながら、それには応えずに震えの治まらない背中を何度も撫でた。
そうやって繰り返し撫でているうちに、悟空の強張りが溶けてきた。
怯えて逃げようとしてばかりいた悟空の腕が、ギュッと三蔵の袂を掴む。

その僅かな重みと体温に、三蔵はホッと安堵の息を吐いた。




…そして。

「…なぁ…俺は、そんなに頼りないか?」

そう、静かに問うた。



「お前に助けられないと駄目なくらい、俺は…弱く、見えるか?」
「さんぞ…ぉ…?」
「…こんな風に、泣くほど嫌な事を我慢してまで守らないといけないくらい、俺は弱く見えるか?」
「――――……っ」

悟空の金瞳が、大きく見開いた。




――数ヶ月前。

聖天経文へ辿りつけそうな、信憑性のある情報が手に入り――殆ど毎週、経文探しに駆けずり回っていたのは事実だ。
もう一年余り、手詰まりで前進しなかった状況を変えたくて、意地になっていたのかもしれない。
だが、実際には徒労とも云える無駄足ばかりを踏まされて――部屋に戻って来るたびに…疲れきった姿を見せてしまっていたに違いない。

悟空が『有力者の男が持つ新しい情報』とやらを、身を引き換えにしてでも手に入れてやりたいと思う位には。
泣きそうな顔で、ひたすら首を振る悟空に苦笑して――そのこげ茶の髪を撫でた。



「だったら……もう少し、お前は俺を信用しろ。」
「さんぞ、…三蔵、でも俺…っ、三蔵の役に立ちたかったんだ…」
「……知ってる」
「ホントは何回か…言おうとしたけど、三蔵…凄く疲れてて…、悲しそうで…。俺の事で、心配掛けたくなかった。――けど、そのうちに、アイツ…三蔵が探しているモノに心当たりがあるって…――さ、触ってくるようになって…」
「……簡単に騙されてるんじゃねーよ。馬鹿ザル…」

力が入りすぎて震える拳を――包むように握り締めて。

「俺は…お前を使ってまで、経文の情報を手に入れたいまでとは…思ってねぇ、から」
と子供に言い聞かせるように、三蔵は囁いた




すると、そんな三蔵の顔を、ジッ――と凝視していた悟空が、泣きそうな顔で微笑んだ。



「―――うん、ごめんな? 俺さ、勝手に…三蔵が、喜んでくれるんじゃないかなぁって…前みたいに、俺見て…笑ってくれるかもしれないって…思って…、馬鹿だよなぁ…?」
「…………」
「――また、迷惑かけちゃった」

笑顔を形作った瞳から、ポロリ、と新たな涙が頬を伝った。
息を呑むほど綺麗で――、透明な涙だった。



「――――――ぁ…?」
「……悪かった」

尚も謝ろうとする悟空の細い身体を、三蔵は強く、強く抱き締めた。
心臓が苦しくて…堪らなかった。

三蔵自身、子供の前で笑っていたと云う意識は殆どない。
だから、どこからか摘んできた花を持ってきては、笑っている姿を見て…辛い事などないのだろうと。
守らなくて良い…強い子供なんだと―――疑いもしなかった…。
その愚かさに眩暈がする。



「悪かった」
「さんぞ…ぉ…?」

低く呟いて濡れた頬を拭うと、衝動のままに紅くなっている瞼に唇を落とした。
贖罪を乞うような口付けに――悟空は零れ落ちそうなくらい、大きく目を見開いた。
――ポカンと、ただ見上げてくる幼い姿に、深い愛しさを覚える。

どれだけ疲れて戻ろうと、お帰りなさいと飛びついて来た、子供。
…独りのままでは手に入らなかった、柔らかな温もり。
大切なものなんか、もう二度と持たないで生きていくつもりだったのに――。

しゃがみこんだまま、腰が抜けたみたいにぺたりと座り込んでしまった子供に、これからはもう、俺以外のヤツに触らせるな・・・と、三蔵は囁いた。



「え…と、……さん、ぞ…?」

言われた言葉の意味がまだよく分かっていないのか――ボンヤリとしている悟空の顎を持ち上げて――ダメ押しのように唇に触れた。

「〜〜…!?」

絶句して、真っ赤になった悟空には――「迷惑料だ」と嘯いた。

実際、これから部屋に残っているエロジジイの文句も聞かされる事だろうし。
慶雲院の内部の“大掃除”も急務だ。

そんな風に、執務に戻ったこれから後の事を考えていると――ツンツンと法衣の袖を引っ張られた。
見ると、悟空が赤い顔のまま妙に思いつめた表情で三蔵を見上げていた。

「…?」
「…な…あのさ、三蔵」
「………なんだ?」
「い、今の、ってか………もっ…いっかい、触って…くれね?」

口にした途端、もっと恥ずかしくなったのか、紅い頬をコレ以上ないくらい赤くして呟く。
三蔵にまでその緊張が伝わってくるような、掠れた声。
あまりに欲のない真摯な願いに三蔵が僅かに躊躇うと――途端に金瞳が不安に揺らいだ。

再び身体を硬くした悟空に胸を突かれて…。



「…バカ猿」

小さく呟いてから、柔らかく唇を塞いだ。
自分から口にした癖に、ビクッと身体を震わせた悟空の髪を撫でて――唇の表面を舐める。



「………ぁ」

微かに漏れた声に悟空を見ると――。
フニャ…と、熱に浮かされたみたいな顔で笑っていた。



「ったく…お前…、コレくらいでそんなに幸せそうな顔してるんじゃねーよ…」
「……だって、う、嬉しい…からっ!!」
「――言ってろ、猿」

照れ隠しにグリグリと髪を撫でると、漸く悟空らしい笑みがその身体中から溢れてきた。
三蔵を心から安心させてくれる、柔らかな笑顔だ。



「――お前がそんなだと…焼餅を妬くヤツが出てくるぞ?」
「?…だれ…?」
「そうだな…俺の知っている中じゃ…とびきり危険で、凶暴で…。
――でも、憎めないオトコ…かな…」
「……へ…??」

ますます不思議そうな顔をした悟空には、バレたら殺られるから内緒だ――と釘を刺しておいた。










まぁ――もうすでに…死ぬほど怒っているだろうが。



あの苛烈な光を放つ金晴を思い出して。







コレくらい目を瞑ってろ…と。

 ――小さく笑った。








 

2007年 3月末日

◆思いがけなく【identical】の続編ができました!

書きたかった出だし部分をチラ見せした所、物凄い勢いで喰い付いて下さったmichikoさんに捧げたいと思います。(大迷惑;)
でも、「読みたい」と言ってもらえなかったら、そのまま、また何年も引き出しに仕舞われていた事でしょう。

切っ掛けを下さって、いつも本当にありがとうございます。

――相変わらず仲の悪い二人ですが;
三蔵をぶっ殺してしまいたいのに出来ないジレンマに苦しんでいる彼を、気に入って下さってありがとう!!
でも、結構人が良いですよね、彼・・・。(^^;)
ちなみに、まだ三蔵・・・悟空には手を出していません。(彼がいる限り、手を出せるのかどうかも怪しいですが。)
まだ青い感じの三蔵をお楽しみ下さい。(苦笑)

長いので、前半と後半を「斉天&三蔵」、「悟空&三蔵」で別けるべきかとも悩みましたが…一本にしてみました。
それぞれをカッコ良く書くって難しいですが、ちょっと楽しくもありました。(^―^*)

最後―― 予想外に甘くなりましたが、楽しんでもらえると嬉しいですv




 

<みつまめ様 作>

みつまめ様から頂きました。
identical」の続編でございます。
この危険な金鈷をしたまま表面に出てくる斉天を再び読めるなんて、逃すわけにはいきませんでしょう(微笑)
某所で読ませて頂いた時には、もう餓えた何とかのように、がっつり食い付いて離さなかった、私。
ガッツいた私に、優しく、寛いお心を示してくださり、こうして頂いてしまいました。
それも「
identical」とセットでv
この悟空が大事でしかたない「彼」は三蔵が邪魔で、邪魔で、殺したい程だったりします。
三蔵は三蔵で「彼」の想いを知っていて、悟空を邪険にしたり、甘やかしたりと好き放題です。
けれど、「悟空」が誰よりも、何よりも三蔵を大事に思っているし、三蔵もまた悟空を大切に思っているので、手が出せない。
だから、三蔵を助けるのは「悟空」のためで、本人にとっては物凄く不本意で、腹の立つことなんですよね。
そんな二人が「悟空」を挟んで何となく共同戦線みたいなものを貼りそうな様子を見せてくれるこのお話。
三蔵なんて死ねばいいと思ってる「彼」にとって三蔵は「悟空」が身体を投げ出してまで役に立ちたいと思うことがどうにも許せない。
三蔵を思うその所為で傷つく「悟空」を庇えても、慰めることが出来ない。
それは悔しいことに三蔵にしかできないことで。
そのジレンマと三蔵への嫉妬で、いつも隙を狙ってる彼が愛おしいです。
みつまめ様、本当に本当にありがとうございました。
私は、幸せですv
一緒に頂いた続編 「
identical」は こちら からどうぞv

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