金色のパズル 銀色のクレヨン (1) |
「凄い格好ですねぇ…金蝉。総長の威厳は何処に置いてきたんですか?」 泥だらけで暴れる子供を肩に担ぎ、開いた片手に世に言うお砂場セットを持った金蝉が、疲れ果てた顔をして玄関先に座り込んでいる姿を見つけた天蓬は、おもちゃを見つけた子供の様な顔をして声を掛けた。 「うるさい…」 楽しそうな天蓬の声に、むっと、不機嫌な声で言い返しながら、自分を上から見下ろす右腕の男を金蝉は睨む。 「やだぁ、もっと遊ぶぅ──っ」 肩の上で暴れる子供の丸い尻を叩くと、金蝉は玄関に放り出した。 「喧しい!ちったぁ聞き分けろ」 ころんと玄関の板の間に仰向けに転がったまま、子供はまろい頬を膨らませる。 「悟空、お父さんはこれからお仕事に行く準備をしなきゃいけないんですよ。だから、聞き分けて下さいね」 天蓬の柔らかな声で語られる説得に、悟空はしゅんとうなだれてしまう。 「また、明日遊んでやる」 ぎゅっと金蝉の首に悟空は抱きつく。
幼子を腕に抱く金蝉は、傘下の組員を含めると二万人はくだらない構成員を持つ日本有数の暴力団昇竜会竜王組の総長だった。 妻の面影をその幼い容に宿した大地色の髪に大きな金色の瞳の息子は、人なつっこく、やんちゃな子供だった。 掌中の宝。
「お風呂沸いてますから、綺麗にして来て下さい」 先程の不機嫌はどこに行ったのか、金蝉は悟空を抱いたまま風呂場へ向かった。
パタパタと湯上がりの上気した顔をほころばせて、身体を拭こうとする金蝉の手から逃げる。 「待て、悟空」 追いかける金蝉に遊んで貰っている気で居る悟空が、言うことを聞くはずもなく、濡れた髪から雫をまき散らしながら、濡れた小さな足跡を残して廊下を駆けてゆく。 「こら、待ちやがれ」 金蝉が怒鳴るたびに、悟空の可愛い口から笑い声が零れる。
どうにかこうにか、逃げ回る悟空を捕まえた金蝉は、けらけらと笑う悟空の身体を拭いてやり、長い髪を乾かしてやる。 息子の育児を初めて早五年、すっかり板に付いた金蝉だった。
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