青空に虹の雨が降る。
か細い煙が、光に導かれて天に昇ってゆく。
それを見上げる幼子の無垢な笑顔が、涙を誘った。



金色のパズル 銀色のクレヨン (2)
どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえる。
夢うつつで、金蝉は朧に眠りの淵から浮上した意識の隅で考える。

火の付いたように泣き叫ぶ赤ん坊の泣き声。
泣くなと、まどろみを手放さない意識を宥めながら考え───金蝉は飛び起きた。

「悟空!」

ベットから飛び出ると、傍らのベビーベットへ駆け寄る。
そこでは、悟空が顔を真っ赤にして、泣いていた。

「…すまん」

声も枯れよと泣く我が子をそっと抱き上げ、金蝉は宥めるように小さな背中をぽんぽんと叩く。
それでも悟空は泣きやまず、金蝉は困った顔を向けた。
抱く向きを変えてみると、少し気が治まったのが泣き声が小さくなる。

「どうした?恐い夢でも見たか?」

優しい声音で話しかけながら、涙に濡れた頬を拭ってやる。
悟空はしゃくり上げながらその瞳を開いた。
常夜灯に濡れて光る黄金の宝石。
金蝉はその瞳を覗き込むようにして、柔らかな笑顔を浮かべた。

「落ち着いたか?」

ゆらり、ゆらりと自分の身体を揺らしながら金蝉は、静かに自分を見上げてくる悟空に話しかける。

「母親の夢でも見たのか?あいつは優しい奴だったから、お前を残して逝くことを酷く悲しんでいた…悟空、だから泣くな…あいつに怒られるだろうが」

指先で頬に触れると、悟空がふわりと笑った。
その笑顔に逝ってしまった妻の面影が重なり、金蝉はこの夜、妻を亡くして初めて涙を零したのだった。





















「おーい、金蝉、おむつはコレで良いのか?」

自宅近くの大手スーパーに、捲簾と捲簾の息子、5歳になる悟浄と天蓬、その息子八戒、5歳と一緒に金蝉は悟空を連れて買い物に来ていた。
天蓬親子は、悟空の服と下着を買いに上の階へ、捲簾親子、金蝉親子は地下の雑貨食料品売り場へ落ち合う場所と時間を決めて、それぞれ向かった。

流れ落ちる豪奢な金髪を無造作に一つに結い、ジーンズにシャツのラフな姿に、愛くるしい赤ん坊を片手に抱いてカートを押す姿は、買い物客の視線を独占する。
その上、一緒にカートを押しながら買い物をする捲簾の爽やかな印象と、傍らで買い物を手伝う紅い髪の幼子もその容姿で、人目を惹いた。
だが、それは本人達には与り知らぬ事で、周囲の視線など歯牙にも掛けず、買い物に集中するのだった。

紙おむつが所狭しと並ぶ棚から青いパッケージのおむつを金蝉に見せて、捲簾が確認する。

「サイズが大きい。もう一つ下のサイズでいい」
「おう」

捲簾はサイズの確認をして、それを二つカートに入れた。

「父さん、天蓬が、えっと…天花粉を買っといてって言ってた」
「そうか、金蝉、天花粉がいるんだとよ」
「ああ、そろそろ暑くなってきたからな、汗疹対策だそうだ」
「よく、気が付く…」

捲簾が感心する。
すると、悟浄が、

「あれ、気持ちいいもん。な、悟空」

金蝉の腕の中の悟空に同意を求めるように笑いかけると、悟空が声を立てて笑う。
そして、悟浄に向かって抱っこを強請るように小さな両手を差し出した。

「金蝉、いい?」
「ああ、落とすなよ」
「うん」

金蝉から悟空を受け取って、悟浄が抱いた。
悟空は嬉しいのか、にこにこと笑って、大人しく悟浄に抱かれている。
その間に金蝉は、捲簾と手分けして必要な物をカートに放り込んでゆく。
悟浄は二人の邪魔にならないように、陳列棚の端に立って大人しくしていた。

愛くるしく、大きな金色の瞳の赤ん坊を抱いた深紅の髪に紅玉の瞳を持った子供の姿は、父親であろう美丈夫の二人同様、人目を惹いた。
それは、良くも悪くも悟浄と悟空を危険に曝すことに他ならなかった。




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