金色のパズル 銀色のクレヨン (7) |
極道の所帯は大抵男所帯で、女っ気と言えば組長の妻、もしくは娘ぐらいのもので、華やかさとは縁遠いものだ。 だが、ここ、竜王組に関して言えば、男所帯のむさ苦しさは微塵も感じられなかった。 総長の金蝉は、裏の世界に名だたる美丈夫で、美女も裸足で逃げ出すほどの美貌の持ち主である。 そして、竜王組の華と言えば、金蝉の一人息子で、将来の竜王組総長、今年四歳になったばかりの悟空が一番に上げられた。 だから、女性特有の華やかさはなくとも、十分潤いのある竜王組であった。 その美丈夫の筆頭金蝉が、愛息子の入園式に、シンプルなチャコールグレーの背広で、幼い息子の手を引いて出掛けたのだった。 紺地に空色の二本線のセーラー服と半ズボンの真新しい制服。 「父さん、友達出来るかな?」 大きな金眼を期待に輝かせて悟空が、金蝉を見上げる。 「きっとな、たくさん出来るだろうさ」 金蝉の言葉にそれはそれは嬉しそうに頷くと、繋いだ手をぎゅっと握りかえして来たのだった。
綺麗な鉢植えの花と造花で彩られた幼稚園の正門。 「ご入園おめでとうございます」 にこりと頬笑む職員に黙って頷くと、金蝉は悟空を前へ押しやった。 「こんにちは」 優しい笑顔で挨拶された悟空が、恥ずかしそうに挨拶を返す。 「あちらの掲示板でクラスを確認なさったら、そのクラスの受付へお出で下さい。担任が新入園児を出迎え、名札を付けます」 職員はそれだけを説明すると、金蝉に封筒を渡した。 「初登園の日に提出して頂く書類とご案内が入っています。書類は、朝、通園バスに同乗している教員にお渡し下さい」 金蝉は頷き、悟空を伴ってクラス分けの表が貼られている掲示板へ向かった。
「父さん、俺、何組?」 掲示板を見ている金蝉の背広の裾を引っ張って、悟空が早く教えてと急かす。 「ねえ、俺、何組?」 金蝉の返事に、嬉しそうに何度もクラスの名前を悟空は繰り返した。 「ご入園おめでとうございます」 受付の前に立つと、柔らかな笑顔を浮かべた女性教員が、挨拶した。 「お名前は?」 と、金蝉の後ろに隠れるように立っている悟空に問いかける。 「大丈夫だ」 小さな声で頷いてやれば、悟空はおずおずと受付の前に立った。 「こんにちは」 職員の挨拶に、悟空は顔を桜色に染めて挨拶を返す。 「お名前、教えてくれるかな?」 誇らしげに名乗る悟空に職員は笑みを深め、名簿をチェックし、桃色の桜の花をかたどった名札を持って、悟空の前に回ってきた。 「悟空くん。貴方の先生の八百鼡です。よろしくね」 元気に返事をする悟空の制服の胸に、名札が付けられた。
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