金色のパズル 銀色のクレヨン (7)

極道の所帯は大抵男所帯で、女っ気と言えば組長の妻、もしくは娘ぐらいのもので、華やかさとは縁遠いものだ。
だが、ここ、竜王組に関して言えば、男所帯のむさ苦しさは微塵も感じられなかった。

総長の金蝉は、裏の世界に名だたる美丈夫で、美女も裸足で逃げ出すほどの美貌の持ち主である。
その金蝉の片腕、貸し元頭の天蓬も黒髪に翠の瞳の笑顔が優しい好青年、もう一人の片腕、金蝉のボディーガード兼代貸の捲簾は、笑顔が爽やかな好青年であった。
二人ともそれぞれ金蝉の横に並び立っても遜色ない美貌の持ち主でもある。

そして、竜王組の華と言えば、金蝉の一人息子で、将来の竜王組総長、今年四歳になったばかりの悟空が一番に上げられた。
大きなハチミツ色の金晴眼、大地色の柔らかな髪、愛くるしい桜唇、まろい頬。
舌足らずに話す声は耳障り良く、その笑顔はどんな宝石より輝いていた。

だから、女性特有の華やかさはなくとも、十分潤いのある竜王組であった。

その美丈夫の筆頭金蝉が、愛息子の入園式に、シンプルなチャコールグレーの背広で、幼い息子の手を引いて出掛けたのだった。

紺地に空色の二本線のセーラー服と半ズボンの真新しい制服。
濃いタータンチェックの楕円の小さなリュックと紺色の通園帽。
悟空の初々しく可愛らしい姿を玄関先で写真に納め、金蝉は電車で三つ先にある私立の幼稚園へ向かった。

「父さん、友達出来るかな?」

大きな金眼を期待に輝かせて悟空が、金蝉を見上げる。

「きっとな、たくさん出来るだろうさ」
「うん」

金蝉の言葉にそれはそれは嬉しそうに頷くと、繋いだ手をぎゅっと握りかえして来たのだった。






綺麗な鉢植えの花と造花で彩られた幼稚園の正門。
入園式を示す看板の前で、もう一度悟空の姿を写真に納め、金蝉は受付へ向かった。
背が高く、春の朝日に映える金糸とその美貌に、入学式に出席した父兄を始め、子供達までがしばし見惚れる。
だが、そんな視線に慣れた金蝉は、全く動じない。

「ご入園おめでとうございます」

にこりと頬笑む職員に黙って頷くと、金蝉は悟空を前へ押しやった。

「こんにちは」
「こ、こんにちは…」

優しい笑顔で挨拶された悟空が、恥ずかしそうに挨拶を返す。
それに頷いて、受付の職員は金蝉に向き直った。

「あちらの掲示板でクラスを確認なさったら、そのクラスの受付へお出で下さい。担任が新入園児を出迎え、名札を付けます」
「分かった」
「その後、ご父兄は体育館へお入り下さい。新入園児は靴を履き替えて、教室へ一端入ります」

職員はそれだけを説明すると、金蝉に封筒を渡した。

「初登園の日に提出して頂く書類とご案内が入っています。書類は、朝、通園バスに同乗している教員にお渡し下さい」
「了解した」

金蝉は頷き、悟空を伴ってクラス分けの表が貼られている掲示板へ向かった。




「父さん、俺、何組?」

掲示板を見ている金蝉の背広の裾を引っ張って、悟空が早く教えてと急かす。
そんな悟空に優しい視線を向けると、金蝉は掲示板から離れ、悟空が入るクラスの受付へ向かった。

「ねえ、俺、何組?」
「もも組だ」
「もも組…もも組なんだぁ…」

金蝉の返事に、嬉しそうに何度もクラスの名前を悟空は繰り返した。
やがて二人は、クラスの受付の前に立つ。
悟空はなんだか急に気恥ずかしくなって、金蝉の後ろへ身体を隠した。

「ご入園おめでとうございます」

受付の前に立つと、柔らかな笑顔を浮かべた女性教員が、挨拶した。
そして、

「お名前は?」

と、金蝉の後ろに隠れるように立っている悟空に問いかける。
金蝉は黙って、悟空の身体を自分の前へ押しやった。
それに不安げな瞳を返してくる。

「大丈夫だ」

小さな声で頷いてやれば、悟空はおずおずと受付の前に立った。

「こんにちは」
「こ、こんにち…は」

職員の挨拶に、悟空は顔を桜色に染めて挨拶を返す。

「お名前、教えてくれるかな?」
「な…まえ?」
「そう、何て言うのかな?」
「えっと、孫悟空」

誇らしげに名乗る悟空に職員は笑みを深め、名簿をチェックし、桃色の桜の花をかたどった名札を持って、悟空の前に回ってきた。

「悟空くん。貴方の先生の八百鼡です。よろしくね」
「はい」

元気に返事をする悟空の制服の胸に、名札が付けられた。
その姿を嬉しそうに、そして何処か誇らしげに傍らの金蝉に見せる悟空だった。




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