#16.三蔵様生誕祭レポート(3) |
客殿には皇帝陛下を中心に陛下のご寵愛を受けていらっしゃる寵姫の皆さまとそのお付きの侍従の皆さまが、絢爛豪華な衣装に身を包んで三蔵様のご来場をお待ちになっていらっしゃいました。 三蔵様は、客殿の入り口で深々と礼をなさり、皇帝陛下の前へお進みになられました。 私と笙玄は、入り口に控えて様子を見ていました。 陛下は御座からお立ちなって、三蔵様に歩み寄られ、三蔵様の美しい御手をとられ、にこにこと頬笑まれて、お声をかけられました。 「玄奘殿、本日はおめでとう御座います。余は、そなた様の息災なお顔を拝見できて本当に嬉しい」 やんわりと陛下の取られた御手をお外しになり、陛下のご来駕の御礼を申し上げられました。 「本当にいつお会いしても、玄奘殿は美しく、たおやかでいらっしゃる」 本当に。
さて、陛下との謁見のあと、三蔵様は控え室へお戻りになっていらっしゃいました。 「ったく…あのクソオヤジ、逢うたびに毎回、触りやがって」 笙玄の言葉に三蔵様が、苦虫を何万匹も噛みつぶしたようなお顔をなさいました。 >>#17へ続く |
#17.三蔵様生誕祭レポート(4) |
暫し休憩された三蔵様は法堂へお入りになられました。 そこには長安を中心とした寺院の住職達が一同に介して、三蔵様の説法をお受けするべく控えておりました。 法堂の入り口で三蔵様は何度か大きな深呼吸をされると、笙玄が開いた扉の中へ入ってゆかれました。 私も続いて入ろうとしましたら、笙玄に止められました。 「申し訳ないのですが、悟空の昼食の準備をして欲しいのです」 私は、笙玄の申し出に心臓が飛び出そうになりました。 「私でよろしかったら、私は構いません」 笙玄は嬉しそうに笑うと、悟空の食事の指示をくれました。
寝所の扉の前でどれほど深呼吸したでしょう。 少しして、細く寝所の扉が開き、悟空が顔を覗かせました。 「お昼の食事を持ってきました」 そう私が告げれば、悟空は小さく頷いて、扉を大きく開けてくれました。 >>#18へ続く |
#18.三蔵様生誕祭レポート(5) |
悟空の食事を載せたワゴンを押して寝所の中へ入った私は、あまりの緊張と感激に入口で立ち止まってしまいました。 寝所の部屋は本当に明るくて、柔らかく甘い薫りがしました。 入口の正面には扉があり、その扉が開け広げられた向こうに寝台が二つ見えました。 と、くいっと衣が引っ張られていることに気付き、ようやく私は我に返りました。 「えっと…大丈夫か?」 そう言われて初めて、私は長い時間入口に突っ立ったままでいることに気付きました。 「あ、あぁ…だ、大丈夫です」 慌てて笑顔で悟空に頷けば、悟空はきょとんと表情を無くしたかと思う間もなく、くすくすと笑い出しました。 「変なの…」 何と答えていいのかわからずに小首を傾げる私に、悟空は、 「それ、そこの机に置いてくれたらいいから」 と、カウンターの前の机を指差しました。 「は、はい」 返事を返し、私はワゴンを押して悟空が示した机に近づきました。 >>#19へ続く |