誰かに見られてる 誰かが監視してる この不安は何…
Assault 〜喪失〜
学校の帰り洸と潤は、学校と自宅の中間にある児童公園に立ち寄った。 「話って何?」 ベンチに座ると洸が切り出した。 「うん…」 言いよどむ潤を不思議そうに見やる。 「言いにくいこと?」 洸の方を見ないで潤が、意を決したように言う。 「べつに…なんも隠してないって」 潤の言葉に弾かれたように顔を上げる。 「な・何も…」 声の震えが洸の嘘を潤に伝える。 「お前ね、そーゆー態度がバレバレだってんの。何年お前と連んでると思ってんだ?」 そう言って笑う。 「一人になるとため息吐いて、不安そうに窓の外見てたり、暗い顔して考え事に沈んでたりさ。最近は人の話も上の空のこと多いじゃん。何も見てないと思ってた?」 洸に向き直って笑って見せた。 「言ってもさ、潤はきっと笑うよ。笑って信じてくれないよ」 決めかねている洸に冬の風が決断を促すように一瞬纏わり付くように通り過ぎていった。
僕を呼ぶ夢の中の美しい人。 ”早く、早く私たちの所へ来てください…彼らがもうすぐそこまで迫っているのです” でも、彼女に僕の言葉は届かない。
「…可笑しいだろ……」 そう言って、なげやりに洸は笑った。 「バーカ。何でもっと早く言わねーんだよ」 うつむく洸に潤は、努めて明るい声をだす。 「だからバカって言うんだよ。まあ、まんま信じるっていうのも変だけど、その夢にはきっと意味があんだろう。その…美人が助けを求めてるってさ」 洸なんかに助けを求めたって何の足しにもなんねぇのにな、と言って笑う。 「悪かったな。何の足しにもなんなくて」 潤の言葉にふくれてみせる。 「夢なんだから、深刻に考えてもどうにもなりはしないって。それともその…戦士っていうのになりたいわけ?」 洸は、大きなため息をつく。 「何だよ?!」 そう言いながらまた笑う。 「変な奴…」
見つけた。 見つけた。 こんな辺境に居たなんて。 気づかないはずだ。あんな子供だったとは。 どちらだ? 茶色の方だ。 もう一人は、どうする? いらぬ。 結界を張れ。邪魔者は入れるな。 召還者の念も遮断しろ。 行くぞ!
不意に空が翳った。 「ん…な…なに?!」 目を庇い、ベンチに踞る。 「洸!」 潤の声に顔を上げる。 「だ・誰?!」 洸の目の前の男の腕が、上げられる。 「潤──っ!!」 体中から赤い霧を上げてボロ布の様に潤の身体が宙に舞う。 「あ…あ…あーっ!!」 洸は、あまりの光景に膝から崩れおれる。 「あ……あああ…」 小刻みに震える洸の身体の周囲が薄青く光り始める。
身体を苛む鈍痛に洸は、意識を取り戻した。 「………?!」 力の入らない腕で身体を支えて起きあがる。 「…ったく…今の…!!」 横を見て息が止まった。 「じ…潤…?!」 ズタズタに切り裂かれ、血まみれの幼なじみが、そこにいた。 「おい…潤?!ねえ…目開け…」 自分が血まみれになる事も忘れて、潤の身体を揺する。 「潤…潤…えっ…うぇっ……」 涙が溢れて、嗚咽が漏れる。 「…母さん…かあ…さ…」 呟く自分の声に我に返る。 「母さん!!」 走り出す。 「………う…そ……あ…っ!!」 かろうじて繋がっていた洸の意識は、目の前の光景に耐えきれず闇に落ちた。
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