洸を連れた旅が始まった。 その間に洸について判ったこと、 銀河の辺境に位置する太陽系の第3惑星、 ───それだけ。 それで十分。 今更、失ってしまった星のことを
聞いても仕方ない。 洸の柔らかな笑顔から翳りが消えることを──
Usual 〜世はこともなく〜
「何考えてんの?」 キアが、ベランダの手すりにもたれて外を眺めているジエンに声をかけた。 「・・・別に」 手に持ったマグカップを差し出す。 「ふん・・・」 差し出されたカップを受け取りながら、ジエンは忌々しそうに鼻を鳴らした。 「熱、ずいぶん下がったよ。今サルヴァが様子を見てる」
洸と旅を始めて約三ヶ月。 何より洸とうち解けることが先決だったから。 そうは思ってもやはり人間、我慢の限界はある。 で、ある日船から嫌がる洸を無理矢理下ろした。 慌てた三人は、急遽市街地にあるコテージを手に入れ、そこに身を落ち着けた。
「無茶だったのかな・・・」 ため息混じりにキアが呟く。 「バカ言え、仕事をしてるんだ、気にするな」
ジエン達の行為を黙って受け入れようとしていた洸。
───三ヶ月前。
洸の様子に一喜一憂する三人の様子に笑いをこらえながらソルクは、別れ際にジエンに言った。 「襲っちゃだめだよ」 こらえきれない笑いを零しながら言われた言葉の意味をジエンが理解する頃にはソルクの姿は消えていた。 「あんのやろ・・・」 ふるふると拳を握りしめて、怒りに震えているジエンを洸はびっくりした顔で見つめていた。 「ジエン、アキラが言葉わかんなくって良かったじゃない」 にやにや笑いながらサルヴァが煽る。 「ちょっと、サルヴァ・・・」 キアが止めようと口を挟む前に、壁際に立つサルヴァの顔のすぐ横にジエンの拳がめり込んでいた。 「ジエン、サルヴァ、いい加減にしてよ。アキラが怖がってるじゃないか」 キアの怒りを含んだ声にジエンは小さく舌打ちすると、洸を見た。 「ジエンが怖いってさ。サルヴァもいい加減にしときなよ」 自分にしがみつく洸の肩を抱いて、宥めるようにさすりながらキアが二人を睨む。 「わかってるわよ」 髪を掻き上げて、洸に笑いかけると、 「ごめんね」 そう言った。 「悪かったな」 と、言いながらキアにしがみついたままの洸の頭を軽く叩いた。
それが、三ヶ月前。
「かわいそうばかりも言ってらんねえだろうが。ぼちぼち俺達の生活に慣れてもらわないと、飯の食い上げだろうが」 キアのため息につられるようにジエンもため息を吐く。 「何?どうしたのさ?」 ジエンのため息にキアがびっくりして聞き返す。 「何が?」 キアの驚きにジエンが、きょとんとした顔をする。 「や、だって、いつもは勝手にやってろみたいな所があるのに、アキラのこととなるとダメじゃん」 キアの言葉に返されたジエンの言葉の意味を肯定するように頬がそれとなく赤らむ。
訳も分からない内に全てを失った子供。 ごく普通の子供。 一人になりたがらない子供。 心に負った傷は、治るのか。 ときおり見せる無邪気な笑顔が曇らないように願わずにはいられない。 たった三ヶ月。
「──仕事の依頼主、明日会うって、さっき連絡が入ってたっけ」 ふっと、思いついたように告げる声に、 「あ、ああ・・・」 生返事で答えるジエンにキアは肩を竦めると、そのままジエンをベランダに残して、部屋へ入って行った。
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