何かに呼ばれたような気がして目が覚めた。 だるくて重い体を無理矢理起こして、部屋の中を見渡す。
───来て・・・ここへ・・・来て、ねえ・・・・・
Summons 〜トア〜
ぱちっと音が聞こえるような、何の予備動作もなく洸の瞳が開いた。 しんと静まりかえった家の中が、まだ夜明けにはほど遠い時間だと告げている。 洸はふと、小さく息を吐き玄関へ向かった。
夜風が家の前庭を吹き抜けてゆく。 薄いピンク色の月と黄金色の大きな月が中天に懸かって、 洸は小さく身震いすると、歩き出した。
洸が倒れた星、トア。 ジエン達が、仕事の依頼主と会う約束をした星。 動けなくなった洸のためにジエン達は、町はずれのコテージを一軒買った。
申し訳程度の門を抜け、洸は何かに導かれるように草原の奥を目指す。
心に訴える声。
あの日まで聞こえていたあの、黒髪の美しい人の呼び声。
その声が今また、自分を呼んでいる。
その声に導かれるまま、洸は歩みを進める。 『・・・だ・・れ・・?』 誰何する洸の意識は、途切れた。
朝、ジエンはサルヴァとキアのけたたましい悲鳴で目が覚めた。 洸のことが気がかりで寝不足の身体にその悲鳴は、ジエンの機嫌を最低レベルに追いやるには十分な音量の騒音を有していた。 「ってぇな、何だってんだ?」 事と次第によっちゃ、ただじゃ置かないと、暗に臭わせた不機嫌きわまりない声で訊く。 「ア、アキラが、いない!」 キアが掴みかからんばかりの勢いでジエンの腕を掴む。 「アキラがいないって?!」 何を寝ぼけたことを言って───言いかけた言葉をジエンは飲み込んだ。 「何時からいない?」 ジエンの顔色が変わる。 サルヴァが答える。 「俺が寝る前に様子を見に行ったときは、ちゃんと寝てた」 キアの返事に頷くジエンにサルヴァが言う。 「ベットは冷え切っていたから、その後出ていったのよ」 身支度を整え、玄関のドアを開ける。 「ジエン、今日は依頼人と会う約束・・・」 ジエンとサルヴァにキアが、毛布を差し出した。 「毛布?!」 怪訝な顔でキアを見やる。 「あの子、寝間着のまま素足で出ってるんだ。昨日まだちゃんと熱が下がってないから、早く見つけないとヤバイかもしんない。だから」 ジエンとサルヴァはそれぞれ毛布を受け取ると、洸を捜しに出かけて行った。
冷たさに目が覚めた。 『・・・ここは?』 身体を起こした洸の目に入ったのは、鉄格子だった。 『牢屋?・・・何で?!』 自分は確か、自分の部屋のベットで寝ていたはず。
その時、ぞわりと肌が泡だった。
石を踏む音と共に、赤い血の色をした瞳の人間が現れた。 「目、醒めたんだ」 静かだが、どこかからかいを含んだ声で話しかけてきた。 「僕が、怖い?」 あからさまな侮蔑を含んだ声で言う。 「蒼い力の人、やっと見つけた」 にっと笑った笑顔に洸は、凍り付いた。 「その力さえ有れば、あの人は甦る。必ず」 かたかたと体が震え出す洸の様子に赤い目を眇めた。 「怖いんだ。大丈夫、すぐに怖くなくなる。そうだ、君の名前を聞いておこう。僕は、サラと呼んでくれればいい。君は?」 サラと名乗った人間から受ける恐怖で答えることができない洸にサラは酷薄な笑み見せ、 「答えられないのならまあ、いいや。じゃあ、後でね」 のどを鳴らして笑うと、去って行った。 『・・・・怖いよう・・・』 滲み出た涙はやがて頬を伝い、床にシミを作る。
「アキラ──っ!!」 ジエンがアキラの名を呼ぶ。 まだ体調は悪いはず。 「やっと、笑うようになったてぇのに」 ジエンは奥歯を噛みしめる。 「アキラ──っつ!!」 通るジエンの声が、風に乗って消えていく。 「アキラ───っつ!!」 胸の内に沸き上がる不安を振り払うようにジエンは、洸の名前を呼んだ。
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