いつもより早くに起こされた。
と言っても、もう昼だよな。



そう、今日はあの小猿の誕生日らしい。



一昨日だったか、あのクソ坊主の側係の笙玄が協力してくれとやってきた。
別に暇だし、いいんだけど…。

誕生日なんて単に生まれた日ってだけで、嬉しくもめでたくもない日だ。
幸せに祝ってもらえたのは、いくつの時までだったか…。
覚えているのは、生まれてこなきゃよかったと思えるような事ばかりだから。

まあ、あの脳みそが胃袋でできてるような単純で、お馬鹿な小猿の誕生日なら、祝ってやっても良いと思う。




あいつと初めて会った時、何てガキだと思った。

小せぇくせに、腕っ節は大人以上で、そのくせ無邪気で。
あんなに自分の髪や瞳に拘っていたのがバカらしくなるほどの素直な感想。

一緒にいた生臭坊主の言葉と一緒に俺の拘りを笑いやがった。



それからだ。



あんなガキなのに、頭の中は生臭坊主のことと飯のことでいっぱいなガキなのに、気になる。
いや、可愛いんだよ。

悟空がそこにいるだけで、場の空気が和らぐっていうのか、気持ちが柔らかくなる。
そして、悟空のあのヒマワリのような笑顔を独占したくなる。

悟空が居る、傍にいるそのことだけで、俺は幸せってぇのをちょっと実感できる。

「俺さ、俺さ、悟浄と遊ぶの好き。なんか兄ちゃんと遊んでるってゆ─か、友達と一緒にいるってぇの?うん、すっげ─楽しい」

金色の瞳をきらきらさせて俺の顔を覗き込むから、思わず笑っちまった。

「んだよぉ…」

途端に膨れるその顔に、また、笑えてくる。

「もう、笑うなよ、このエロ河童ぁ」
「俺も、楽しぃぜ、悟空」

むくれきった顔に向かってそう言ったら、一瞬、すっげぇマヌケ面を曝したかと思うと、こっちっがびっくりするような笑い顔の花を咲かせた。




ああ、悟空が側に居る、それだけで幸せが本当に実感できる。






「何、笑ってるんです?」
「…えっ?」

差し出されたカップを辿れば、八戒が少し呆れた顔をして俺を見ていた。

「何でも…ねぇよ。サンキュ」

くわえてた煙草を離して、カップを受け取る。

「飯食ったら、小猿の誕生祝いでも買いに行くか?」

と、問えば、八戒はそれは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

いつも作ったような笑顔を浮かべている八戒の心からの笑顔を久しぶりに見た。
これも、悟空の効果かねぇ。
さて、アイツの喜びそうなモノでも捜しに行きますか。

俺は、短くなった煙草を灰皿に押しつけた。




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