いつになくお日様が輝いて見えるのは、気のせいでしょうか。

柔らかな春の陽ざしが本当に眩しいほどで、こんな日は悟空のあの笑顔を思い出します。
窓から見える、今を盛りと咲き誇る桜の木々が、山を薄紅に染めています。
こんなに春が綺麗な季節だと、思い出せたのは悟空のお陰ですね。




悟空の養い親の三蔵が留守の時や、仕事が忙しすぎて構ってやれない時、三蔵が仕事に悟空を連れて出掛けた時の帰りか、僕や悟浄が三蔵の元を訪れた時にしか、悟空の顔を見ないのだけれど、いつ見ても悟空は本当に楽しそうに笑っています。

本当に、見ているこちらの気持ちまで明るく、楽しくしてくれます。

「八戒って、優しいな。あのさ、俺、親っていうか、お母さんっていうの知んないけど、街の友達のお母さんと同じに、八戒は暖かくて、優しいからきっと、こんな感じなんだろうなって……」

ある時、ふと悟空が照れたようにそう言ってくれました。
その時、僕はびっくりして何も答えられずにいたのですが、悟空は僕が気を悪くして黙っているのだと思ったらしく、慌てて謝ってくれました。

「ご、ごめんな。変なこと言って…わ、忘れて、な、八戒」

そのちょっと泣きそうな、狼狽えたような困った表情がとても可愛かったのですが、可愛い悟空の笑顔が曇ってしまったのではもったいないので、

「いいえ。嬉しいです。でも、お母さんより悟空専用の保父さんにしておいて下さいね。あ、大事なお友だちでもいいですよ」

そう言って笑えば、すかさず、

「八戒、ありがとぉ。大好き!」

悟空は抱きついてくれました。

こんな時、あの、人を人とも思わない、人使いの荒い三蔵だけれども、どんなに悟空を大切に育てているかを実感させられます。
悔しいですが、それだけ、三蔵の心も綺麗だと言う事なんでしょうね。




そして、三蔵の傍に居る笙玄という傍仕えの方も悟空には優しいようで、三蔵の言葉足らずな所をフォローしているのが、端で見ててもよくわかり、微笑ましいです。
妖怪であると言うだけで、寺院の僧侶達の悪意に曝されている悟空の傍に、一人でもそんな人間が居るというのは、心強いことです。

その笙玄さんが、一昨日、四月五日は悟空の誕生日だから、みんなで盛大にお祝いしたいから、是非、悟浄と二人で三蔵の元へ来て欲しいとのお誘いを下さいました。

それはもう一も二もなくお邪魔するお約束をしましたとも。

それから指折りと言っても、ほんの二日ほどですが、悟空の喜ぶ顔を思い浮かべながらの日々は、本当に幸せでした。



そして、今日は、可愛い悟空の誕生日です。



悟浄をいつもより早めに起こして、部屋の掃除をして、洗濯物を干して。

いそいそと準備をする僕の後ろで、悟浄は気だるそうに煙草をくわえて考え事をしていましたが、そんなことより、悟空へのプレゼントです。

お料理を作ってくれる笙玄さんには、バースデーケーキは僕が作ると宣言して、昨日から下ごしらえをし、今朝、無事に焼き上がり、仕上げも終わって、後は悟空に食べてもらうだけ。
でも、ちょっと物足りない気がします。



だから…



出掛ける準備を終えて、悟浄の食事の用意をえ、コーヒーを持ってリビングに行けば、何やら悟浄は楽しそうな笑顔を浮かべていました。

いつもは何処かからかいを含んだ悟浄の笑顔が、今ははんなりとして本当に楽しそうで、思わず見惚れてしまいました。
これも悟空の効果でしょうか…。



ねえ、悟浄、寺院へ行く途中で悟空の誕生日プレゼントを買いましょうね。




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