朝から笙玄に落ち着きがない。 いつもならさっさと仕事をしろと煩いくせに、今日に限っては何も言わない。 だが、以前もなんだかんだと、この日は仕事が良くぽっかりと空くので、今回もそうだろうかと、思ってみたりする。 笙玄が用意していた未決裁の書類に目を通し、決裁印を押して最後の一枚の書類を決裁の箱に投げ込んだ。
窓から見える春の日向で、桜が薄紅に染まっている。 あのサル・・・悟空を拾って何回目のこの日を迎えるんだ? 悟空は五行山の岩牢に五百年もの間、閉じこめられていた。 三仏神でさえ知らなかったのだ。 煙草を吸いながらそんなことを思い出している自分が、おかしい。 そう、悟空が傍にいるだけで、ささくれた気持ちが安らぐ。
そういや、ずいぶん前だったか…。 「三蔵って綺麗だよな。そんで、暖かくてきらきらしてて、太陽みたいだ」 と、こっぱずかしいことを嬉しそうに言っていた。 「うん、三蔵のことだぁ─い好きぃ」
……俺も大概湧いてるらしい。
あれから、もともと悟空が泣くのは苦手だったが、その上、あの輝くような笑顔も苦手になった。 甘くなった。 ま、悟空が傍にいる、それは心地が良い。 さて、遊びほうけてるサルを探して、構ってやるか。 ところで、笙玄の奴は何を企んでやがる?
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