三蔵のお気に入りの場所にも桜の木が何本かあって、それが何処よりも綺麗に咲いてるのを昨日見つけた。
一緒に三蔵と見たかったけど、毎年、お釈迦様の誕生日のお祭りでいつもよりずうっと、三蔵は忙しいから諦めてる。

でも…見たかったな。
今丁度、一番綺麗に咲いてるのに。

俺は、桜の木の根元に座って、幹にもたれた。

今日は、天気が良くて、暖かくて、気持ちいい。
そんで、俺の誕生日だ。

誕生日って言うのは、人間が生まれた日のことを言うんだって。
でも、俺はいつ生まれたとか、何とか言っても覚えてない。
前に、三蔵が俺は大地と自然に望まれて岩から生まれたんだって言ってた。
だから、この大地と自然がお前の両親であり、兄弟なんだから親がいないとか、兄弟がいないとかで寂しがるなって言ってくれた。



嬉しかった。



でも、でも、俺は三蔵が居てくれるだけでいい。
三蔵の傍に居るだけで幸せ。

それに今日が誕生日だって決めてくれたのは三蔵。
俺が三蔵の手によってあの岩牢から連れ出された日。
俺がもう一度、この世界に生まれ直した日。

三蔵も本当は、自分の誕生日を知らないんだって。
生まれてすぐ、川に流されてしまったから。
三蔵が教えてくれた三蔵の誕生日は、三蔵のお師匠様が三蔵を拾った日を誕生日だと決めてくれたんだって。



でも、内緒。



寺の奴らは、三蔵の誕生日を間違って覚えてるから、ホントのことを知ってるのは俺だけ。
笙玄だって知らない。
当然、八戒も悟浄だって知らない。
俺と三蔵、二人だけの秘密。

毎年、三蔵の傍に一日居るのが、三蔵へのプレゼント。

だ、か、ら、俺の誕生日も一日、三蔵が傍に居てくれたらいいのに。
そしたら、誕生日のお祝いも、ケーキも、料理もいらないのに。




へこんできた気分が、桜に伝わったのか、さわさわと枝を揺らして慰めてくれる。

大地の友達は、みんな大好き。
いつも優しくて、暖かくて、還ってお出でって言ってくれる。

嬉しいけど俺は、還らないって決めてるんだ。
三蔵の傍にずっと居るって、約束したから。

あ、そう言えば前に、笙玄が、

「悟空が笑ってくれていると、それだけで幸せになります」

って、言ってくれた。
悟浄と八戒も、

「お前は笑ってろよ、悟空」
「悟空の笑顔を見ると、元気が出てきますよ」

って。

俺、そんなにいつも笑ってるかな?

だって、楽しいし、嬉しいし、幸せだから。
ちょっと、顰め面してる方がいいのかな?

そう言ったら、桜の木も草も風まで、みんなが笑った。

俺、バカにされてる?

拗ねてやろうかと思ったら、三蔵がこっち来る気配がした。
仕事、終わったのかな?
逃げ出して来たのかな?

何でもいいや。

今日だけは傍にいて欲しいから。

うん、俺がいつも笑っていられるのは、三蔵がね、

「お前は、笑ってろ」

そう言ったからなんだからね。




ほら、茂みの向こうに金色が、見えた。




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