君にこの聲が届きますように (3) |
無理矢理こじ開けられた悟空の力はそれまで以上に不安定になり、悟空の精神が少しでも揺らげば、周囲の植物たちを刺激し、暴走させるようになった。 「…も、もう…許して…ごめんなさいぃ」 部屋の隅に蹲って泣きじゃくる悟空を引きずるようにして、実験台に括り付ける。 「いやぁ…ぁあ」 拘束された細い腕に注射器の針が刺さる。 「…ぃやぁぁ…」 上げる悲鳴はやがて微かになり、悟空の意識に紗がかかった。 「さあ、こちらへお出で」と、優しく、ねっとりと甘く、抗いがたい力で悟空を呼ぶ。 答える声に抑揚はなく、拘束を外された悟空が、ゆっくりと実験台に起き上がった。 「これが今度のターゲットだよ」 見せられた顔写真。 「そう…上手だよ。さあ、片付けて」 声が悟空のすることを褒める。 歌声が高くなり、先程とは違う抑揚で謳われる。 自分の周囲の植物たちが、急に風もないのにざわめきだしたことに男はびっくりして逃げよう走り出した。 「巧くできたね。次は後片付けだよ」 声に褒められて、悟空は笑って頷くと、また、謳いだした。 「今日も巧くできたね。君は本当に良い子だよ、悟空」 声が撫でるように悟空の精神を絡め取り、奈落へ落として行く。 「さ、疲れただろう?もう、お休み」 優しく、労る声に悟空は頷くと、糸が切れた人形のように実験台の上にくずおれた。
激しい頭痛と引き絞られるような吐き気に苛まれて悟空は目覚めた。 「…また…」 霞の掛かった意識の底で、悟空は自分が何をしたのか覚えている。 「…ぅくっ…ぁ…」 涙が溢れた。 「ごめん…ごめんなさい…」 ベットに泣き伏す悟空の周囲を植物たちがざわざわと宥めるように、小さな身体を抱きしめるように囲い込んだ。 悟空が最初に連れて来られた日からここの庭は悟空の部屋となっていた。 だが、それもニィには通用せず、悟空の精神を蝕む仕事をさせに連れて行ってしまうのだ。
◇◇◇◇◇
「金蝉、今までどこにいたの?俺…俺…」 ようやく泣きやんだ少年は抱きついていた腕を離し、顔を上げ、そのまま、固まった。 「……ぁ…え…っと……」 三蔵は、少年を膝にのせたまま何も言わずに、自分の膝の上に座る少年の泣き腫らした顔を見つめていた。 少年を拾ってほぼ一週間。 ようやくお互いの顔を合わせることとなった。 「起きたんだな」 ほんの数秒か、何分かお互いにお互いをまじまじと見交わしたあと、三蔵が最初に口を開いた。 「で、名前は?」 きょとんと、表情を無くす悟空に三蔵は頷きながら僅かに口元を綻ばせた。 「で、金蝉て誰だ?」 三蔵に問われて、悟空は瞳を見開いた。 そして思い出す。
この人は金蝉と一緒?…俺と同じ?
「言いたくないか?」 顔を覗き込まれて悟空はゆるゆると首を振った。 「……金蝉は…俺の父さん」 その言葉に、三蔵の瞳が見開かれた。 「そうか…で、その金蝉はどうしたんだ?」 目覚めて最初に見せた悟空の酷く怯えた様子を思い出し、三蔵は怯えさせないように細心の注意を持って問いかけた。 「…………っ」 三蔵はぽんぽんと悟空の頭を空いている方の手で宥めるように叩いた。
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