君にこの聲が届きますように (6) |
満月が照らす山道を三蔵は車を飛ばしていた。 自分の家で悟空の身に何が起こったのか。 荒らされたいや、悟空を守ろうと家のものが戦った痕から三蔵は全てを知った。
悟空…
サンルームに座って眩しそうに庭を眺めていた悟空の消えそうな横顔を三蔵は思い出していた。 悟空は何も言わない。 しかし、拾った時の様子を思い出せば、相当過酷な状況下に置かれていたことは、簡単に想像が付いた。 それはあまりに酷い生活。 そして、金蝉がどうなったのかもアキニレは語ってくれた。 三蔵が全てを知っていることを悟空は知らない。 三蔵に気を許せば黙っている自信がないのだと、悟空が気に入っていつも側に置いていたタマサボテンが内緒だからと、教えてくれた。 それとね、これは内緒なのだけれどと、タマサボテンは嬉しそうに三蔵に耳打ちした。 「俺もだよ」 と、タマサボテンに答えた。
峠を越えたそこに鬱蒼たる森が広がっていた。 三蔵は森の入り口で車を止め、降りた。 そんな三蔵に森は、戸惑っていた。 では、この金色の生き物は、味方だというのだろうか。 つい先程、幼子が連れ戻されたと、風が教えてくれた。 「当たり前だ。俺はそのために来たんだよ」 不意に、立ち止まった三蔵が、ぼそりと呟いた。 「ごちゃごちゃとうるせぇ。あいつを、悟空を助けたいと思うならさっさと、ここを通しやがれ」 バチッと、三蔵の足許がスパークした。 「俺は今、歯止めが利かねえ。怪我したくなかったら道を空けろ」 森は三蔵の声音に本気を感じ、そして確信した。 「な、何だ?!」 驚く三蔵の目の前が不意に開けた。 「あそこだな」 呟けば、ざわりと森が動き、風が三蔵の身体を攫った。
◇◇◇◇◇
「やだっ!離して!」 悟空が暴れるたび、実験台に括り付けられたベルトがぎしぎしと音を立てる。 「いや!!いやぁああ──!!」 ベルトに触れる素肌が傷ついて、血が滲む。
ニィに捕まって、意識を取り戻した時、そこは見慣れた実験室だった。 「…な…」 あまりなことに、忘れていた恐怖が蘇る。 「思い出した?そう、ここは君にとって、とても気持ちの良いところだよね」 かたかたと歯の根が合わなくなった悟空の様子に、満足したようにニィは頷くと、悟空の目の前にアンプルが翳された。 「君がいない間に、もっと君が楽にお仕事が出来るように改良したんだ。使い心地も以前のに比べたら格段に気持ちよくなっているんだよ」 その言葉に、悟空の顔が紙のように白くなる。 「……ぃや…」 無意識に口を吐いて拒絶の言葉がでる。 「だぁめ。これは君のために造ったんだから、君が使わなくちゃね」 唯一、身体の中で自由になる首を振って、悟空は止めろとニィに訴えた。 「ところでねえ、悟空。外の世界は楽しかったかい?色々初めて楽しかったはずだよ?君をここへ連れて来た時、君はまだ五歳ほどだったから、きっと何でも珍しかったはずだ。だから、感想を聞かせてよ」 するりと、悟空の頬をニィが愛おしそうに撫でた。 「博士、どうぞ」 助手の女が、準備の出来た注射器をニィに差し出した。 「ああ、ありがとう」 それを受け取り、ニィは悟空に笑いかけた。 「じゃあ、悟空、楽しい夢を見ようね」 悟空の絶叫が響いた。 「ご、悟空…?」 弾き飛ばされ一瞬、意識が飛んで床に転がったニィが顔を上げた。
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