君にこの聲が届きますように (7) |
風に乗って研究所の屋上に三蔵が舞い降りた時、建物全体が地面から突き上げるように大きく揺れた。 そして、ガラスの割れる音と同時に建物のすぐ脇に生えるアカガシが、建物を貫くように枝を走らせるのが見えた。 「な…何だ?」 衝撃に身体を揺らしながら三蔵は、建物の周囲へ視線を走らせた。 「……暴走?!」 ずきんと、三蔵の頭が痛んだ。 「…っぅ…ぁ」 その急激な聲の流れ込みに、精神が焼き切れそうになるが、その植物たちの聲に混じる微かな悟空の気配に気付いた三蔵は、痛む頭を何度か振って意識の中の雑音を振り払い、意識を手のひらに集中させた。 「導け」 三蔵は金色の蝶に軽く息を吹きかけた。 「悟空…」 三蔵は蝶の後を追って走り出した。
体中の血が別の生き物のように息づいていた。 引き金を引いたのはニィの笑顔か、恐怖か、哀しみか今はもうわからない。 壊したい。 最初にニィをこの手で引き裂いた。 けれど、哀しかった。
◇◇◇◇◇
暴走する植物たちを宥めながら、三蔵は金色の蝶に導かれるままに研究所の中を走り抜けた。 そして、導かれた先にいたのは、深紅の〈妖〉だった。 「…ご…くう…か?」 三蔵の無意識にこぼれた呟きに、夜空を見上げていた悟空で在るはずの妖が三蔵を振り返った。 「──!!」 恨めしげに虚空を見つめるそれは、ニィの生首だった。 「…お前」 絶句する三蔵のすぐ脇を暴走したウバメガシの幹が壁を突き破って走り抜けて行く。 「こいつが、お前をこんな風にしたのか?」 ニィの生首を指して問えば、妖の身体がほんの僅か強張った。 「そうか。なら、気が済んだだろうが。それともここを破壊し尽くすまで収まらねえのか?」 三蔵の言葉に、また、どこかが爆発する音と振動が伝わってくる。 「それに、こいつ達をこれ以上痛めつけてやるな」 暴走したツタの蔓が、三蔵の腕に巻き付いた。 「今、暴走している奴らは、お前の友達なんだろが」 妖の金晴眼が、軽く眇められた。 「悟空」 三蔵の声に、妖の身体が宙に舞った。 「悟空!」 床にめり込んだ手刀を引き抜くその妖の目の前を凄まじいスピードで木の枝が、走り抜ける。 「ぁう…ぁ」 引きちぎった枝が、妖の力を受けて鋭利な刃に変化する。 「縛!」 三蔵が上げた声と同時に、三蔵は喉を掴まれて妖に組み伏せられた。 「くっ…ご、く…う」 にたりと、妖の口角が上がり、刃を振り下ろした。 間一髪、風の緊縛が間に合ったのだ。 ぬるつく首を上着の袖口で拭うと、三蔵は風に拘束された妖──悟空と正面から向き合った。
|
6 <<close >> 8 |