sight line (11)

雲が切れ始めた。
その切れ間から覗く僅かな蒼と微かな陽の光。
その光に雨は銀糸の霧となって振り落ちていた。

悟空は三蔵の背後で如意棒を構え、三蔵は灌木と悟空を背に刺客達が姿を現すのを待った。

がさりと灌木を囲む茂みが揺れ、刺客達が姿を見せた。

「やっと追いつめたぜ」
「よくもまあこれだけちょろちょろと逃げ回ってくれたな」

忌々しそうに刺客の一人が、顔を歪めた。

「今度こそ、その賞金首もらってやる」

刀を構え、数の有利を信じた笑いが浮かぶ。

「やっちまえ!」

その一言を待っていたように刺客達が一斉に襲いかかった。

正面から来る刺客達を三蔵の銃が阻む。
その撃たれて倒れる仲間の死体を踏んで、刺客達は三蔵と悟空へ襲いかかった。

三蔵は自分の身を盾にしながら、悟空へ伸ばされる刃を叩き落とし、銃を放つ。
悟空は三蔵の銃の音、刺客達の足音、三蔵の気配、刺客達の妖気に神経を尖らせ、少しでも三蔵の戦いの妨げにならないように身構えていた。

身構えているばかりで一向に戦いに参加してこない悟空の様子に、刺客が気付いた。
そして、仲間達の注意を悟空に向ける。

「孫悟空は動けねえみたいだ。三蔵法師より先にやっちまえ」

そう言って仲間を煽動した刺客の頭を三蔵は撃ち抜いた。
けれど、悟空を襲おうにも三蔵が盾のように悟空の前に立ち塞がっているため、容易に近づけない。

「やろう…」

苛立ったように浮かぶ汗を刺客達は拭った。
その様子を茂みの影から見ていた蛾月は音もなく悟空の背後に忍び寄った。
三蔵の意識は自分達を取り囲む刺客達に向いていて、背後への注意は疎かになっている。
その隙をつくように蛾月は薄く笑うと、悟空の如意棒を掴んだ。

「うわっ!!」

咄嗟のことで反応が遅れた悟空は、あっという間に蛾月に押さえ込まれてしまった。

「悟空!」

すぐ傍に迫っていた刺客を撃ち倒した三蔵が、悟空の上げた声に振り返る。

「貰うよ、三蔵法師様」
「てめぇ…」
「…っのぉ、離せ!」

如意棒に抱きつくような格好で腹這いになった悟空を上から押さえつけて蛾月が嗤う。

「さっさと三蔵法師を殺ってしまえ」

蛾月の言葉に刺客達は一斉に三蔵に襲いかかった。




間近に迫った刺客の額、心臓、首を正確な射撃で撃ち抜き、横から突きかかってきた奴を銃のグリップで殴りつけ、銃弾を撃ち込む。
その隙を狙って背後から襲えば、後ろ回し蹴りが胴を払った。

「三蔵法師様の相手は彼らに任せて、俺たちは行くよ」

蛾月は暴れる悟空の腕と足を押さえ、身動きできないように抱え込んだ。

「やだ!離せ!離しやがれ!!」

振り下ろされた刃を銃身で受け止めた三蔵が、悟空の声にそちらへ視線を投げれば、連れて行かれそうな悟空の姿が目に入った。

「連れて行かせねえ」

三蔵は銃身で受けた刃を力任せに押し返し、刺客の顔を撃ち抜きざま、蛾月を狙う。
一瞬疎かになった背中を強かに殴られ、三蔵は膝を着いた。

三蔵の上げた呻き声に、悟空の悲鳴に似た声が三蔵を呼ぶ。

「三蔵!三蔵──っ!!」

暴れる悟空をものともしないで肩に担いだ蛾月は、刺客にのしかかられて地面に倒れた三蔵を楽しそうに見下ろしていた。

「これで孫悟空は俺のモノだな」

そう呟いた蛾月の躯を灼熱が襲った。
その激しい痛みに思わず悟空の躯を放り出す。

「!!」

地面に放り出された悟空の呻き声に重なって三蔵の魔戒天浄の声が響いた。

その途端、悟空の懐から迸る浄化の光。

その光に刺客達は薙ぎ払われた。
蛾月は魔天経文の発動の衝撃に吹き飛ばされ、灌木に叩き付けられた。

一方、悟空は自分の懐から発した閃光に見えない瞳を見開いたまま、呆然と地面に投げ出された格好のままそこに転がっていた。

閃光が躯を包んだ時、悟空は自分の躯から何か膜のようなモノが引き剥がされた気がしていた。

やがて経文は三蔵手に戻り、二人の周囲に陽の光が戻った。




 

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