sight line (6)

微睡むような温もりの中を泳ぐようにゆっくりと悟空は意識を取り戻した。

何か夢を見ていた様な気がするが、意識が起きてしまえばそれは彼方へ行ってしまう幻だ。
追いかけてもその姿を見つけることはできない。
悟空は小さく息を吐くと、気怠げに目を開けた。

開いた瞼の先に見えたのはぼんやりとした暗さだった。
全てのモノの判別が難しい黄昏時のような、夜の帷が降りた直後のような暗闇だった。

その暗い闇に雨の音だけが響く。
その雨の音がぼんやりとした覚醒しきらない意識を再び眠気へと誘ってくる。
その誘惑につい、眠りの縁に落ち込みそうになるのを堪えるように悟空は何度かまばたくことで眠気を追い払った。

「…さ、んぞ?」

無意識に三蔵を呼ぶ声が悟空の口からこぼれ落ちた。
朧な闇に木霊する自分の声に、ようやく悟空ははっきりと目覚めた。

肌に感じる周囲の気配と雨音の響き具合で悟空は自分が見知らぬ部屋にいることを知った。

そして、宿屋であれば聞こえてくる喧騒や人の気配の無いことで、ここが宿屋でないことはすぐに知れた。

だが、それでここがどこだかわかるはずもなく、悟空は暗い部屋の様子を知ろうとと躯を起こした。
その途端、全身を襲う激痛に思わず蹲った。
忙しくなる呼吸を落ち着かせるように悟空は息を止め、痛みが引くのを待った。

痛みが幾分落ち着いた頃、そろそろと顔を上げ、周囲を見渡したが、部屋が暗すぎるのか、はっきりと何も見ることはできなかった。

薄暗がりなら夜目の利く悟空には昼間とさほど変わらない。

けれど、どんなに目をこらしても見えるのは輪郭の定まらない薄ぼんやりとした闇だけだった。
ただ、躯に触れる柔らかさで自分が寝台に寝かされているのはわかった。

「なんで…見えないんだ、ろ…?──ぁ」

洞窟で刺客達と戦った時、たくさんの小さな袋に入った粉を投げつけられた。
それが目に入ってから視界が塞がれてしまったことを思い出した。

そして、その状態がまだ続いていると言うことにも気付いたのだった。

「あの鱗粉みたいな粉のせい…?」

けれど、それがわかったところで、目が見えるようになるわけでなく、自分が何故ここにいるのか、ということもさっぱりわからなかった。

洞窟で刺客達と戦い、逃げるためとはいえ、洞窟の天井を突き崩した。
ようよう這い出て、そこに三蔵の姿を見つけ、這い寄ろうと動いた途端、躯の下の岩が崩れて意識が暗転したのだ。

だから、自分がここに連れて来られたのはその後だろうし、連れて来たのは当然三蔵だろう。
それぐらいの推測は悟空にも簡単にできた。

しかし、悟空の水槽通りなら必ず傍に居るはずの肝心の三蔵の気配も感じられず、姿も見えなかった。

「…三蔵、どこだ?」

悟空は周囲を探るように手を伸ばし、不安な面持ちで三蔵の気配を探った。
けれど、近くにはいないのか、安心できる三蔵の気配は感じられなかった。




寝台から下りて動き回ることもできずに、三蔵の気配を探していた悟空は疲れていつの間にか眠ってしまっていた。

やがてかたんと床が鳴った音に悟空は目を覚まし、はっとして顔を上げた。
部屋の入り口だろう辺りが四角い形に明るい。その明るさを背景に黒い影が人の形を作っていた。

「誰…?」

見えない目に感じる眩しさに瞳を眇めながら問えば、その人影は無言で悟空に近づいてきた。

「誰だよ?」 

近づく人影に悟空の躯が強張り、その気配に悟空の肌が粟立った。
人影が放つ気配の中に見知った気配を悟空は認めたが、見知らぬ気配が混じり合う所為で人影の正体を曖昧なものにしていた。

そして、そこから放たれる気配の冷たさに悟空はその気配から逃れるようにのろのろと力の入らない躯を後ろへ下げようとした。
けれどその前に悟空はその人影に腕を掴まれ、寝台に引き倒されてしまった。

「……ッぁ!!」

倒された衝撃がまた、激痛を生む。
その痛みに息を呑む悟空の両手を一つにまとめ上げると、人影は頭上で固定した。

そして、悟空の膝の辺りに馬乗りになり、いきなり悟空の服を引き裂いた。

「何しやがる!」

何とかして押さえ込まれた手を振りほどこうとするが、動くたびに躯を苛む痛みで、悟空の呼吸は瞬く間に忙しなくなる。
そんな悟空の様子に悟空を押さえ込んだ人影は薄く笑ったようだった。

「すぐ、気持ちよくしてやる」
「な…にを…」

相手の声を聞いた途端、悟空の瞳が見開かれた。
それは紛れもない先程まで悟空が捜していたはずの人物の声。
何よりも悟空を惹きつけ、離さない彼の人の声だった。

「…さ…ん、ぞ…なん…で?」

信じられない思いで名前を呼んでも応えはなく、暴かれた素肌を辿る手のひらは優しさの欠片もなかった。

「やだっ!離せ!…──ぅあっ…!!」

薄い胸を這い回る手に胸の突起を摘まれ、捻られた。
その痛みに悟空の躯が跳ねる。構わずその無慈悲な手は悟空の胸の粒をこねくりまわす。

「…ぁやぁあ……!」

その刺激に悟空の躯は意志とは無関係に痛みの中から快感を拾い始めた。
それを敏感に感じ取った人影は悟空自身をズボンの布越しに握り込んだ。

「や…ろっ…ゃだ、っ…」

掴んだそれをそのまま揉みし抱く。
人影の手の中で形を変えていく己の変化に悟空は唇を噛んで耐えた。

「声、聞かせろ」

ぎゅっと目を瞑って耐える悟空の耳朶に舌を差し込むようにして人影が囁く。
その顔に触れる髪から薫る嗅ぎ慣れた香に悟空の瞳が一瞬大きく見開かれ、揺れた。

「…な、ん…で…」

見開かれた金瞳が見る間に水の膜で覆われ、溢れたそれは悟空の頬を伝った。

「決まっているさ、悟空」

笑いを含んだその声は彼の人の声に間違いなく、悟空の躯から抵抗する意志が消えた。




 

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