sight line (8) |
「…ん…ぅ…いや…ぁあっ…さ、んぞ」 執拗に首筋を舐められ、剥き出しにされた下肢を容赦なく撫で回され、扱かれる。 それでも触れているのが誰よりも大切な人だから、悟空の躯は三蔵の機械的な愛撫でも快感を拾い、悟空自身を熱く、堅く形を変えてゆく。 「ぃぁ…やぁあ…」 背筋を這い登る絶頂感に悟空は身を捩った。 「ひっ…ぁあ…!」 鈴口に爪をねじ込むようにして、解放を促された悟空は高い声を放って、三蔵の手の中に欲望の飛沫を放った。 「……ぅ…ぇっ…」 肩で忙しなく息をしながら悟空は呆然とする。 けれど、光を失った瞳には影しか見えない。 「いい声だ」 口元を綻ばせて三蔵は笑い、悟空の薄く開いた唇に自身のそれで軽く触れた。 触れた唇の冷たさと吐息の冷たさに、自分に覆い被さっているのが『三蔵』でないと、悟空はようやく気付いた。 その瞬間、悟空の枕元、寝台の脇机の上に置かれた悟空の上着から閃光が漏れ、悟空の上に覆い被さっている『三蔵』を打ち払った。 「…ぐっ!」 『三蔵』の躯は宙を飛び、壁に叩き付けられた。鈍い音とくぐもった呻き声を上げて、『三蔵』は床に落ちた。 「……!?」 何が起きたのか、悟空は理解できないまま、気を失ったらしい『三蔵』を寝台の縁から覗いた。 「なに…?」 見えぬ目をこらして『三蔵』の姿を何とか捉えようとした悟空の瞳が妖気を感じて見開かれた。 「妖、怪…どこに?」 悟空の感じた妖気は、気を失った『三蔵』の姿が揺らぎ、三蔵とは似ても似つかない男の姿になった時に、発散されたものだった。 「ッ…ぁあ!!」 一瞬呼吸が止まる程の痛みに悟空は動けなくなった。
三蔵だけが知っている悟空の啼き声。 その声が扉の向こうから聞こえてくる。身動きもできず、声すら上げられず、その声を聞いているほかなく、三蔵は気安く蛾月を信じた己を呪った。 執拗に追ってくる刺客達に半ば追いつめられ、悟空の怪我の状態の酷さに余裕を失くしていた。 そして、降り続く雨が、それに伴う嫌な記憶が、大事なモノを失う記憶が三蔵を脅かしていた。 この雨の中、何ものにも代え難い綺麗な金色の宝石を失うかもしれない恐怖。 それが足枷手枷になっていたのだ。 それが理由、それが言い訳、それが悟空を遭わせなくてもいい辛い目に遭わせている。
やがて、悟空の一際高い声が絶頂を迎えたことを三蔵に告げる。 「ッ…ぅああぁ!」 声にならない声で悟空の名を呼んだ時、壁に人が激突する音が聞こえ、家が軽く揺れた。 「!!」 その衝撃に、三蔵は自分が施した術が作動したことを知った。 それは、悟空が無意識に助けを求めたことに他ならない。
蛾月が気を失った所為で三蔵に施されていた術が解けたことに気付くこともなく、三蔵は悟空の居る部屋の扉を開けるのももどかしげに部屋へ飛び込んだ。 そこには、破れたシャツを申し訳程度に躯に纏い付かせ、下肢を汚した悟空が倒れていた。 「ッ悟空!」 駆け寄って抱き起こせば、悟空は怯えた瞳をあらぬ方向へ向けて、三蔵の腕から逃れようと暴れた。 「やだ!離して!」 三蔵の腕を振りほどこうと暴れる悟空を三蔵は力一杯抱きしめた。 「悟空!ここにいる、俺はここにいる」 抱きしめた腕の中で悟空は尚も暴れ、泣き叫ぶ。 「…ぅん…ふっ…ぁ……」 三蔵の宥めるような口づけに暴れていた悟空の動きが止まった。 最後に軽く唇を合わせて、悟空の顔を見やれば薄く頬を染めて自分を見ていた。 「さんぞ…?ホントに?」 そっと悟空を見つめる三蔵の頬に触れ、悟空は怖々訊いてきた。 「安心しろ、本物だ」 と、答えてやれば、悟空の瞳が大きく見開かれ、ぽろぽろと大粒の涙をこぼし始めた。 「悟空?」 本物の三蔵だと何度も三蔵の顔、髪、躯に触れて確かめて悟空はようやく安堵のため息を吐いた。 「ホントに、三蔵だぁ…俺、俺…見えなくて、怖くて…」 悟空の言葉に綻びかけた三蔵の表情が驚きに強張った。
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