金色のパズル 銀色のクレヨン (3) |
「これはどうですか?」 「その色よりこっちが好き」 「八戒は、この青い色の方が好きなんですね?」 「うん」 明るい緑と青い色のベビー服を目の前にかざされた八戒が、青い方を指さして笑う。 「じゃあ、コレを買いましょうか」 嬉しそうに笑う我が子の頭を撫でて、天蓬はレジに向かった。 「さ、金蝉達と合流しましょうか」 天蓬は八戒の手を引いて、下りのエスカレーターに乗った。
ちょうど同じ頃─────
「ねえ、坊や達、迷子?」 陳列棚の端に、赤ん坊を抱えて立っている悟浄に、一人の女が声を掛けた。 「違うよ。父さん達を待ってるんだ」 にこっと笑い返して答える悟浄に、女は赤い唇を楽しそうに歪ませて笑った。 「あら、何処にお父さん達は、居るのかな?」 女の言葉に、悟浄はその紅玉を見開いて、陳列棚の反対側を覗き込んだ。 「…父さ、ん…?」 女が優しい笑顔を浮かべて悟浄の肩を抱いた。 「お姉さんが、探してあげるから安心してね」 きっと、不安に揺れる瞳に力を入れて、悟浄は女を見返した。 「放送で呼び出して貰った方が早いわよ」 腕の中の赤ん坊に笑いかけ、ずり落ちてきた身体を抱き直した。 「腕疲れてるんでしょ。迷子センターまでお姉さんが赤ちゃん、抱いてあげるから…」 悟空に向かって差し出された手を悟浄は力一杯振り払った。 「悟空に触るな!」 中途半端に前屈みになっていた女が、その反動で床に尻餅をついた。 「あ、ゴメン。びっくりしたんだよな」 転んだ女など見向きもせず、悟浄は泣き出した悟空をあやす。 「ほら、そんなのじゃ泣き止まないわよ、赤ちゃん」 一瞬の隙に、女は悟空を悟浄腕から取り上げた。 「な、何するんだ」 悟浄が慌てて女に縋る。 「何もしないわ。この子が大事なら一緒に来て頂戴」 にっと笑った女の笑顔に、悟浄は凍り付いた。
エスカレーターから丁度下を見ていた八戒が、悟浄の腕から悟空が取り上げられる瞬間を目撃した。 「父さん、悟空と悟浄が!」 息子が慌てて指さす先を見た天蓬は、小脇に八戒を抱えるなり、エスカレーターから飛び降りた。 「金蝉と捲簾は?」 八戒が振り返って天蓬に告げる。 「金蝉達に知らせてください」 そう言って、天蓬は八戒を下ろした。
「さ、ここへ入りなさい」 従業員専用の入り口の扉を開けて女が、悟浄に指示する。 「な、何?」 ノブから手を離して後ずさる。 「ウチの可愛い子供達をどちらへ連れて行かれるんでしょうか?」 静かな声音が扉の向こうから響き、天蓬と捲簾、そして金蝉が、入ってきた。 「金蝉!父さん!」 悟浄の顔が輝く。 「よく頑張った」 悟浄に声を掛け、捲簾が前へ出る。 「あっ!」 一瞬のことで動けない大人3人。 「悟浄!」 八戒の叫びに、反射的に悟浄の身体が動いた。 一瞬の静寂。 その静寂を吹き散らすような泣き声が、辺りに響き渡った。
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