金色のパズル 銀色のクレヨン (5)

金蝉に振り払われても振り払われても悟空は、金蝉の腕にむしゃぶりつく。
真っ赤に泣き腫らした顔で、酷いしゃくり上げでろくに口もきけない状態で、それでも必死で金蝉にしがみつく。

そんな騒ぎを組員達は二人を引き離し、触れればこちらがどうにかなりそうな怒気に包まれた金蝉を宥め、パニックに陥って泣き叫ぶ悟空を宥めるのか、誰も何も思いもつかず、行動に移すことも出来ずに、息を詰めて二人を見つめていた。

そこへ、捲簾と天蓬が出先から戻ってきた。
その二人の姿に、わらわらと組員達は縋りつく。
大の大人が、いかつい野郎が、目をうるうるさせて集団で捲簾と天蓬に縋りつく様は、何ともおぞましいやら情けないやら、見るものの哀れを誘った。
だが、縋りついている本人達は必死で、まるで学芸会の群読のように、奥へ進む捲簾と天蓬に事の次第を語って聞かせるのだった。

なるほどリビングへ近づくほどに、悟空の半ば枯れた泣き声と金蝉の地を這うような声が聞こえてくる。

「…切れてるよ、大将は」
「みたいですが、悟空の泣き声が尋常じゃないです」
「ああ」

二人は縋りつく組員達を振りほどいて、リビングの中へ入った。
入って見れば、ゴミ袋を引っ張り合う金蝉と悟空の姿が目に入った。

「放しやがれ、悟空」
「やっ!やぁ…」

小さな手と身体を一杯に使って悟空は、何とか金蝉の行動を止めようとしがみついている。
金蝉は金蝉で、しがみつく悟空を引きはがそうと本気でその小さな身体に手を上げようとしていた。

「金蝉、金蝉!」

天蓬が、慌てて金蝉の肩を掴む。

「悟空、悟空!」

捲簾も慌てて、悟空の小さな身体を後ろから抱き上げた。

「金蝉!総長!」

耳元で叫んだ天蓬の声に、金蝉はようやく後ろを振り返った。

「悟空、もういい。もう大丈夫だから泣くな」

そして、捲簾の悟空をあやす声に、悟空の方を見やる。

「…しゅ…ぅくっ…て、ない…?…ぁっ…も、う、…お…ひっく…もちゃ…しゅて、な…ぇっう…い…?」

酷くしゃくり上げながら捲簾に問いかける。
捲簾は大丈夫だと頷いてやりながら、金蝉の傍に近づいた。
それに合わせるように、天蓬は金蝉の手からゴミ袋を取り上げた。

「悟空、お父さんにゴメンナサイしような。で、後で俺と片付けような」
「…う…ぇっ…ん、捲兄ちゃ…」
「よし、良い子だ」

捲簾に抱きしめられて悟空はまた、少し泣いた。
その様子に眉根を寄せる金蝉の様子に、天蓬は次の行動を促す。

「金蝉、ほら…」

悟空に手を差し出せと、肩を押しやる。

「あ、ああ…」

激しい怒りの治まったあとの虚脱感で金蝉は上手く思考が廻らないのか、悟空に向かって手を差し出せない。

「と、とうしゃん…ご、ごめんなしゃい…ぃ…ふぇ…」

そんな金蝉に向かって悟空は精一杯両手を差し出して、抱っこを強請りながら謝った。
それでも手を差し出せない金蝉に、悟空の泣き腫らした瞳からまた、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「金蝉」
「総長」

天蓬に急かされ、捲簾に睨まれて、ようやく金蝉は悟空を捲簾の腕から受け取った。

「悟空…」
「とうしゃん、とうしゃん…ごめんしゃい、ごめんしゃい…」

ぎゅっと、小さく細いかいなが金蝉の首にしがみつき、温かい涙が首筋を濡らした。

「ああ…分かった。分かったからもう泣くな。な…」

ぽんぽんと背中を軽く叩けば、小さく頷く気配がした。
そんな二人の姿に、家中の人間が安堵のため息を吐く。
その気配に天蓬と捲簾は、顔を見合わせて苦笑を漏らすのだった。






泣きやみ、落ち着いた悟空は、金蝉と天蓬達とリビングを片付けた。
その時、床に出来た大きな傷を見つけた金蝉は渋面を作り、捲簾は呆れ、天蓬は金蝉に片付ける間中小言を言い続けた。
やりすぎたという自覚があるのか、不機嫌な顔をしながらも金蝉は怒ることなく、不機嫌な表情を浮かべたまま、黙々と片付けたのだった。

悟空は、金蝉が踏みつぶしたおもちゃに泣きそうになったが、これも優しい父親を怒らせた自分の所為だと、ぐっと我慢して片付けた。
それに気が付いた天蓬の小言は、益々威力を増し、金蝉をしたたかに打ちのめしたのだった。




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