生日足日
◇◇2◇◇ 「三蔵・・」
生憎の雨天故、結局本日も昨日と同じ宿で───しかも一日中待機する羽目に陥っている一行だったが、昨日と同じ四人の相部屋である筈のこの部屋には ────今現在二人のみ。
悟浄は生憎の雨天も何のその。 そして今部屋に居るのは大仰な音を立てて新聞を捲る三蔵と。 三蔵としては、この状況もまた外出中の二人に計られているのではなかろうかと思わない事も無かったが、ともあれ、静かな一時が過ごせるのであれば良い、と深く考える事は放棄していた。 つい先刻迄は。 そして、やはり計られた────いや、謀られたと言うべきか────と確信したのは悟空が行動を起こしてから、だった。
「・・三蔵?」 最初の呼び掛けに応えもせず、唯溜息を洩らしただけの三蔵に、不審気に悟空が再びその名を紡ぐ。 「何の真似だ?」 まともに成立しない会話に、苛立ちも露に同じ問いを繰り返せば、悟空の口からはあっさりその首謀者の名前が出て来た。
普段の悟空からでは想像に難かったりもするのだが、恐らくこれは世間一般で言う処の色仕掛けなのだろう、と───そしてそんな事を珍しくやって退けたのは恐らくまた碌でも無い事を悟空へ吹き込んだ犯人が居るのだろう、と三蔵は察しを付けた。
「昨日散々構ってやっただろうが。まだ足りないのか?」 昨日、不本意ながらも八戒と悟浄の計略に因り、悟空と二人の空間、二人だけの時間というものを持った。 それも散々。
当然である。 「三蔵、明日誕生日じゃん?三蔵の喜ぶ事って何だろーなー・・って思ってさ。」 某かの謀では無く、悟空自身からこの様な行動に出るのであれば話は別だ、とは口が裂けても言わない事にする。 「まだそんな下らない事考えてやがったのか。」 言う事だけ言い、自分の側をも離れようとした悟空の腕を掴み、三蔵は軽く触れるだけの口付けを交わした。
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