Love・winter 〜雪猿。〜




真っ白なダッフルコートを着た、子猿を見つけた。
こんな寒い季節に手袋なしの両手を擦りあわせて、息を吹きかけている子猿。
吐く息も、真っ白で。


「雪猿・・・。」


ぼそっと雪の中に落とした言葉なのに。
ソイツは、ぱっと顔を上げて。
この季節には咲かないはずの、太陽の花をその顔に咲かせた。


「さんぞーっっ!!」


いつの間に、こんなに俺の中に入ってきやがったのか。
人付き合いなんて面倒臭いだけだったのに。


「さっんぞー!!」


ため息をついた俺に、それでも喧しく名前を呼び続ける。
てめぇの馬鹿でけぇ声なんざ、もうとっくに聞こえてる。
ウサギの様に飛び跳ねる馬鹿に、頭痛さえしてきた。


「さんぞー?」


煩い。


「・・・三蔵?」


・・・おい。
んな不安そうな顔すんな。


「・・ここで待ってたの、迷惑、だった・・・?」


面倒臭いヤツ。
面倒臭いのに、振り払えない。
無視も出来ない。


「・・・別に迷惑じゃねぇよ、馬鹿猿。」


そう言うと、悟空の顔がほっとしたように緩んだ。


「あのさ、さんぞ。これ・・・。」


ポケットから取り出された、大事そうにタオルにくるまれたモノ。


「ハイ。」


無糖ブラックコーヒー。


「さんぞ、お疲れ様。」


真っ赤になった手で、俺に差し出されたソレ。
まだ温かい、缶コーヒー。

そして。

笑うお前の顔。


「おい。」
「なに?」
「なに、じゃねぇよ。なんで手で持ってなかった?」


手袋してねぇんだ。
カイロ代わりくらいにはなるだろ。

言葉にはしなかったがそれを理解したらしい猿は、事も無げに言った。


「だってあったかいの、飲んでほしかったら。」


猿はやっぱり笑った。
俺は、・・・もうため息以外でなかった。


「だって、寒いし。」
「馬鹿か・・・。」
「そ?」


馬鹿だ馬鹿だとは言ってはいたが。
ここまでくると、呆れるしかない。
俺は猿の手の平を掴んで、そのまま俺のコートのポケットに突っ込む。


「さんぞ?」
「なんだ。」
「・・・へへへ、さんきゅなっ!」
「言ってろ。」


赤くなったトナカイ猿の鼻に、俺は小さく口づけを落とした。


「さっ、さんぞっっ!」
「悟空。」
「・・・な、に?」

「今日は泊まってけ。」


雪の中、待たせたからな。
今日くらいは、てめぇの我が儘聞いてやる。


「・・・さんぞ。」
「あぁ?」
「大好き!」
「知ってる。」
「さんぞは?」
「ここじゃ、言えんな。」
「?」

「ベッドの中でなら、いくらでも言ってやるよ。」

「!!」
「おい?」
「そっそんな事っっ、ココでゆーなぁー!!!」


雪猿。
馬鹿猿。
ガキ猿。

今は、茹ダコ猿か。


猿の手をポケットの中で握りしめた。
少し振り返ると、校門から俺と悟空の足跡が付いていた。

ま。

仕方ねぇから。


「隣にいてやるよ。」




end

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